「知る機会ないですもんね」
同調することしかできない明日美である。

しょせん彼には分かるまい。
ソフトウェア開発を手がけるGBBコーポレーションにおいて、生産性の中枢ともいえるトップエンジニアの彼には。
人に求められて望まれてきた経験しかないだろうから。

近いようで遠い。彼のつぶやきだった。

え? と聞き返すと、「あ、いえ」とごまかすように聡はコーヒーを口に運んだ。

まさか多忙を極める彼に力を貸してもらえると思うほど、明日美も浅はかではない。
それでも何か建設的なアドバイスでももらえないものかと思ってしまったが、この人も体制側の人間ということか。

「二階堂さんに話を聞いてもらえて少しすっきりしました」
と心にもない言葉を並べる。

「ならいいんですけど…」

彼の態度と物言いはあくまで神妙で。

妙な夜になったものだ。
自販機のお釣りを巡って、なぜか二階堂聡とお茶を飲むことになり。なりゆきで自分の仕事のグチまで打ち明けてしまった。