「いやあ、現実的じゃないよね」だけで断られるのはまだマシなほうだ。
「こちらも経験のないことなので、考えてみるから少し時間をください」と気を持たせるような対応をしてくる人が案外多いのだ。

そう言ってその後連絡をくれた人は、一人もいなかった。

…みんな処世ばかり上手くなりやがって。
つい汚い言葉が出てしまう。

結局、この数ヶ月で明日美が見つけた仕事は、複合コピー機の用紙や加湿器の水の補充作業くらいなのだ。

一週間か二週間に一度、陽太さん梢さんとミーティングをするようになったものの、何もしてあげられず二人と一緒に嘆くことしかできない日々だ。

会社は生産性しか見ていない。
考えたくないことだが、自分も会社にとっては生産性のないどうでもいい存在ということなのか。

さすがにそんなことを二階堂聡には言えないので「———ダイバーシティ化が実現しないと、うちの会社も一流とはいえないと思うんですよね」と婉曲な表現を選ぶ。

「…まったく知りませんでした。そんな状況だとは」

聡のような知的エリートは、名もなき存在の話にどんな反応を返してくるだろうとうかがっていたが、素朴な回答に肩透かしをくらう。