白桜国夜話 死を願う龍帝は運命の乙女に出会う

傍までやって来た朱華の顔を見た高天(たかあまの)(みかど)は、月明かりの中で見ても明らかに線が細くなっているのに気づき、驚いて眉を上げた。

「数日会わないうちに、ずいぶんと痩せた印象だ。ちゃんと食事を取っているのか」

すると彼女がクスリと笑い、面映ゆそうな表情で言う。

(ちさ)()さまは、いつもわたくしがちゃんと食べているかどうかを気になさいますね。お菓子を分けてくださったり、酒肴を手ずから食べさせてくださったり」
「そなたの身体は細いから、心配になる。ここには酒の肴しかないし、膳奉(ぜんほう)に言って何か料理を用意させようか」
「夕餉をいただいて参りましたので、大丈夫です」

朱華が酒器を手に取り、高天帝の盃に注いでくれた。

彼女にも勧めると控えめに了承し、乾杯する。やがて話題は二日後の瑞穂の祭祀の話になり、朱華が笑顔で言った。

「わたくし、燈籠流しは初めてなので楽しみです。灯りをともした無数の燈籠が川を流れていく様は、きっときれいなのでしょうね」
「燈籠にそれぞれの願いを書いて流し、いつまでも水に沈まなければ叶うといわれている。朱華は何を書くつもりなんだ?」

そんな高天帝の問いかけに、彼女は目を伏せて微笑みながら答える。

「……千黎さまへの、言祝(ことほ)ぎを。今上陛下の御代が太平で末永く続くよう、お願いしようと思います」
「ああいうものは、自分自身が叶えたい望みを書くものだと思うが」
「千黎さまがこの先もずっとお健やかであられることが、わたくしの切なる願いです」

朱華の声にはどこか切実さがにじんでおり、それが気になった高天帝は彼女の頬に触れてつぶやいた。

「今日のそなたは、どこかおかしいな。元気そうに振る舞っていたと思ったら寂しそうな顔をしたり、もしかしてまだ体調が悪いのではないか? 正直に言ってくれ」
「わたくしは元気ですから、どうか心配なさらないでください。さあ、御酒をどうぞ」

酒器を手にしながらそう告げられ、高天帝は自身の盃を差し出す。

朱華は常に笑顔で、話をしながら甲斐甲斐しく酌をしてくれたが、やがて思いがけないことを言った。

瑞穂(みずほ)の祭祀の夜に行われる宴では華綾の采女たちが千黎さまの御前で舞を披露いたしますけれど、残念ながらわたくしはそのお役目から外れてしまいました。ですがこれまでずっとお稽古を続けて参りましたので、この場で披露させていただいても構わないでしょうか」