白桜国夜話 死を願う龍帝は運命の乙女に出会う

風花の言葉は、すぐに証明されることになった。

花壇に撒く肥料を持ってくるように言われて一人で倉庫に向かったところ、朱華は突然後ろから突き飛ばされて地面に手をついた。

振り返るとそこには数名の采女がいて、こちらを見下ろして言う。

「あなた、昨日入ったばかりの新顔でしょ。内蔵頭の娘だという」
「……はい」
「まだ仕事も満足にできないのにお喋りばかりしているなんて、ずいぶん調子に乗っているのね。それとも父親の権力を笠に着て、采女の仕事を舐めてるの?」

朱華が「そのような」と答えたところ、一人が居丈高な口調で告げた。

「家柄だけでどうにかなると思っているなら、大間違いよ。あなたみたいな新顔、龍帝陛下のお傍近くに行くのもおこがましいし、そんな仕事はこの先何年も回ってこないのだから、くれぐれも慢心しないことね」

彼女たちが「行きましょ」と言って踵を返し、その場から去っていく。

立ち上がった朱華は、汚れてしまった()の膝の辺りを手で払って小さく息をついた。風峯の屋敷で働いていたときもそうだったが、女ばかりが集まる場所は新顔いじめが付き物だ。

人が集まればとにかく序列をつけたがり、自分より後に入った者を虐げてもいいと思っている。

(美月や風花のように親切にしてくれる人がいて、助かった。とはいえ一人になるたびにああして絡まれるのは、厄介だわ)

今日の萩音の講義によれば、華綾の采女は一〇〇人ほどいるという。

もっとも序列が上なのは尚侍(しょうじ)で、高天帝の身支度を手伝っており、その下に彼女の補佐をする内儀(ないぎ)、龍帝の衣服の管理をする衣司(ころものつかさ)、食事の手配をする膳奉(ぜんほう)といった役職が続く。

そうした地位に就くには家柄はもちろん、本人の能力も必要だといい、先ほどの采女たちが言っていたように新顔である朱華が龍帝の傍近くに行くのは今のところ不可能に近かった。

可能性があるとすれば、舞や楽器の演奏をする際に彼に見初められることだ。しかし風花いわく、高天帝に夜伽を命じられた華綾の采女はこれまで一人もいないという。

(あんなにきれいな萩音さまでさえ、傍近くに仕えていて一度もお手がついていないのだもの。わたしなんか到底無理だわ)