白桜国夜話 死を願う龍帝は運命の乙女に出会う

そろそろと顔を上げた朱華は、そこにいる龍帝・高天帝(たかあまのみかど)の姿を見てドキリとした。

彼が座っている玉座は黒い漆塗りで、天蓋が金の彫刻やきらめく珠玉で飾られている。年齢は二十代半ばで、鉛丹(えんたん)色の生地に金糸で十二章の刺繍が施された大袖の袞衣(こんい)を着ていた。

何より目を引くのは、その容貌だ。顔立ちは玲瓏としていて、美しさの中に男らしさも漂い、切れ長の目元やきれいに通った鼻梁、薄い唇が絶妙な配置で並んでいる。

瞳の色と髪が常人と明らかに違い、腰までの長さの髪は銀色で癖がなく、まるでなめらかに光り輝く絹糸を思わせた。

瞳は赤く、鮮やかな紅玉のようなきらめきで、これまで黒髪黒瞳の人間しか見たことのない朱華は思わず言葉を失う。

(こんなきれいな人……見たことがない)

絶世の美貌もさることながら、高天帝には侵しがたい威厳と気品があった。
ただそこにいるだけで強烈な存在感があるものの、その表情はどこか気だるげで、少し顔色が悪い。

それを見た朱華は、ふいに風峯が「龍帝は数年前から病んでいる」と言っていたのを思い出す。
その瞬間、高天帝が口を開いた。

「新たな華綾の采女を連れて参ったとのことだが、風峯、そなたには娘がいたのか」
「はい。わたくしが掌中の珠として大切に育て上げた娘でございます」

風峯は朱華が自身と血の繋がりのない養女であることは一切言わず、まるで愛娘であるかのように告げる。

それを聞いた高天帝が、「なるほど」とつぶやき、こちらに視線を向けた。朱華は内心の動揺を押し隠し、急いで礼を取って言った。

「風峯の娘、朱華と申します。龍帝陛下のご尊顔を拝することができ、恐悦至極でございます。今日より華綾の采女として誠心誠意お仕えして参りますので、どうぞよろしくお願いいたします」

すると高天帝が、鷹揚に頷いて言った。

「皇極殿には、尚侍(しょうじ)内儀(ないぎ)を始めとした華綾の采女が多数いる。一日も早く仕事を覚え、よく励むように」
「承知いたしました」