「後にも先にも、俺には美月だけだから」


そう言った有斗の眼差しは、いつもと変わらないまっすぐな光を宿していた。

有斗の手を握り返すと、倍の力が返ってくる。


わたしといるときは、徹底して周囲を気にしている有斗。

だけど元来人には興味がない性格で、今回はそれが根も葉もないスキャンダルを引き起こしたのだろう。


大丈夫。もう、大丈夫だよ。

有斗が来て、真摯に向き合ってくれたおかげで、不安なんて全部吹っ飛んだから……。





──それから更に数日後。

次に事件を起こしたのは、わたしの方だった。


「……あれ?」


1日の業務を終え、更衣室でロッカーを開けた時のことだった。


「どうしたの? アキ」


後からやってきた宮水が、ロッカーの前で固まるわたしに声を掛けてきたけれど、すぐに反応が出来なかった。


ロッカーの内扉についている小物入れに、あるはずの指輪がない。

高校卒業と同時に、有斗からもらったあの指輪。

仕事中はつけられないので、いつも出勤した時に外して小物入れで保管しているのに、それがない。