そして、そんな2人の背景は、ぼかされてわかりにくいようにはされているけれど、間違いなく、有斗が住むマンションの敷地の入り口のもので。

“2人は神崎の家で一晩を過ごし、翌日、別々に仕事に向かった”──そんな注釈がついていた。


「……っ」


腹の奥から何かが迫り上がってくるのを感じて、慌ててその場を離れる。

職員用のトイレに飛び込み、便器に向かって吐いた。


「……っげほっ」


けれど、朝食べたヨーグルトと水を少しもどしただけで、後はもう胃液しか出てこない。


気持ち悪い。胸が痛い。

いつもは根拠がなくても信じられる有斗の言葉が、今は風に吹かれれば消えそうなくらい弱々しく感じる。

映画やドラマで有斗がキスシーンをした時も、どれだけ綺麗で可愛い女優さんが隣にいても、こんなふうには動揺しなかったのに。

傍にいない。すぐに会えない。そんなこと、もう慣れっこになったはずなのに。


「……やだ」


感情のコントロールが効かない。信じたいと思うのに、有斗の言葉を信じきれない。

そんな自分にもショックで、涙が次々に重力に従って流れていく。


何枚にも渡る、2人が同じマンションに入っていく写真が脳裏に焼き付いて離れなかった。