「まぁ、それは確かにー」


同僚達の会話を、どこか遠くに聞いていた。

水が詰まったように、音が輪郭をなくして耳の奥で響く。気持ち悪い。気分が悪い。

目の前がくらくらして、座り込みたくなるのをぐっと堪える。


違う。こんなの、ガセだよ。

だって、昨日連絡くれたもん。

記事は全部嘘だって。信じるなって。

この記事が出ることが予めわかっていたから、誤解を招かないように先に連絡をくれたんだ。

有斗がわたしのことを大切にしてくれていることを、わたしは身をもって知ってるもん。


「“都内の個室焼肉店で食事を楽しんだ後、2人はタクシーで神崎の住む高層マンションへ”……。うわ、写真まであるじゃん」


今をときめく俳優のスクープの続きを、先輩が声を弾ませて読み上げる。

興味津々なみんなは自分のスマホで検索をかけ、該当の記事に行き着く。

ほんとだー、とどこからか声が上がり、話題に乗り遅れないよう、ご丁寧にわたしにも見せてくれるスマホの画面。


「……っ!」


そこには確かに、マスクをした有斗と、メガネをかけている女優・(そよぎ)ほのかが笑い合う姿が写っていた。