「仕方ないね。わたしは大丈夫だから、気にしないで」

『ごめんな、ありがとう』


わたしがどっしりと構えていられるのは、何度予定が反故になったとしても、その都度、本当に申し訳なさそうにしてくれるのも大きいと思う。

引け目を感じすぎることもない、ただ、楽しみがなくなってしまったことに対する申し訳なさ。

知ってか知らずか、その塩梅がちょうどいい。


『ちゃんと戻る日が決まったら連絡する。東京戻ったら、その足で実家に帰るよ』

「わかった。お土産待ってるからね」

『任せろ』


話もそこそこに電話を切ろう──というタイミングで、


「アキちゃん、こんなとこで何してんのー?」


近い距離から声がかかった。

振り返ろうとしたのとほぼ同時に、ずしっと背中に荷重がかかる。


「大橋先生!?」


ふわりとお酒の匂いを身に纏う大橋先生は、わたしの肩に腕を回して、ぐったりと凭れかかっている。

お酒あんまり強くないのに……!


「ごめん、切るね。おやすみ」


耳から離してしまっていた電話口にそれだけを投げ、大橋先生の腕からそっと逃れる。