「結婚してしばらくして、昔から夢やったっていうアパートを建てるってなったけど、1階は人の入るか入らんかわからんようなコワーキングスペースにするとか言い出して。
建物全部アパートにしたほうがええやろって言うたら、智く──……俺の仕事場に出来るやんって。俺、家じゃ気ぃ散りがちやから」
「いい……素敵な奥さまですね」
「うん。朗らかで、俺には勿体ない奥さんやったわ」
振り返ってぐるりと店内を見渡した彼の表情が、わたしから見えなくなる。
「まさか、いきなりおらんくなるなんて思ってなかったよなぁ……」
過去形で語られる幸せな記憶が、胸を突き刺すように痛い。
「先に続くお話……わたしが聞いてもいいんですか」
「うん。秋山さんやったら、言うてもええよ」
既視感を感じるやり取りが殊更切なかった。
あの時とはまるっきり違う空気に、心が張り裂けそうだ。
「3年前の冬。1月の、朝からめっちゃ寒い日で、この辺りもめっちゃ雪が降ってた。
ちょっとそこまで買い物に行ってくるからって店番頼まれて、そこの入口から送り出した。……その背中が、生きてるさくらを見た最後やった」
一つひとつはっきりと、言葉が紡がれる。
どうか言わないでと願っていたことが、容赦なく静かな空間に響く。
建物全部アパートにしたほうがええやろって言うたら、智く──……俺の仕事場に出来るやんって。俺、家じゃ気ぃ散りがちやから」
「いい……素敵な奥さまですね」
「うん。朗らかで、俺には勿体ない奥さんやったわ」
振り返ってぐるりと店内を見渡した彼の表情が、わたしから見えなくなる。
「まさか、いきなりおらんくなるなんて思ってなかったよなぁ……」
過去形で語られる幸せな記憶が、胸を突き刺すように痛い。
「先に続くお話……わたしが聞いてもいいんですか」
「うん。秋山さんやったら、言うてもええよ」
既視感を感じるやり取りが殊更切なかった。
あの時とはまるっきり違う空気に、心が張り裂けそうだ。
「3年前の冬。1月の、朝からめっちゃ寒い日で、この辺りもめっちゃ雪が降ってた。
ちょっとそこまで買い物に行ってくるからって店番頼まれて、そこの入口から送り出した。……その背中が、生きてるさくらを見た最後やった」
一つひとつはっきりと、言葉が紡がれる。
どうか言わないでと願っていたことが、容赦なく静かな空間に響く。



