他の言葉を飲み込む気配を滲ませながら、有斗はわたしの言葉を受け入れた。


昔の有斗だったら、俺の仕事なんか気にしなくていいからと言い放っていたと思う。

でも、今は違う。

言われるままに飛び込んだ演技の世界に、楽しさを見出していることを知っている。

丁寧に役作りをして、全く別の人生を生きることに心血を注ぐ姿を見ている。

今の地位や人気を手に入れたのは、有斗の血の滲むような努力と気概があってこそだ。


セキュリティ万全なマンションを選んでも、同棲すれば、わたしの存在がバレる危険性は高まるだろう。

恋人の存在が、万が一世間の知れるところとなってしまったら──まだ若く、女の子のファンも多い有斗の人気に影を落としかねない。

有斗が人気を気にする性格じゃないことは知ってるけど、わたしが有斗から仕事を奪う理由になってしまったら……。

そう思ったら、踏み出せなかった。


いずれとはもちろん思う。

でも、もう少し有斗がキャリアを築いてから。もっともっと、芸能界での立ち位置が盤石なものになってから。

わたしがそう思って断ったことを有斗もわかってくれていて、角が立つことなく同棲の話は終わった。