「うん。朝早いけど、お願いね」


長年の友人で、高校からお付き合いをしている2人が結婚する。

同じく高校からの付き合いであるわたし達の現在地に、わたしも有斗も何も思わないわけではない。


高校卒業後、都内の大学に進学した有斗は、本人の強い希望で初めは実家から通学していた。

だけど徐々に多忙になって、1時間以上かかる実家からの通学は現実的に難しくなり、一人暮らしを始めたのが大学1年生の秋学期の初め。

自室の窓を開ければすぐに顔を見られた環境から、予定を調整して会おうと思わなければ会えない状況になった。

それでも可能な限り会いに行ったし、時間が出来れば有斗も帰ってきてくれた。

普通のカップルのようには過ごせないけれど、お互いが大切にし合っていることはちゃんと伝わっているから、今日に至るまで、そこに何の不満もない。


「……」


不意に有斗の手が伸びてきて、ぐいっと抱き寄せられる。

有斗の首筋に顔を埋める形になると、ほのかにアルコールの匂いがした。


「あー……帰したくねー……」

「ふふ。毎回言ってるねそれ」

「毎回思うからな」


知ってるよ。

有斗が、わたしと一緒に住みたいと思ってくれていることも。

ただ黙って、高校を卒業した日に贈ってくれた指輪に触れる、その意味も。