魔族の王子の進む道 〜俺様王子が魔王になるまで〜

 『見通しの間』に入った彼は部屋でただ一つ置かれたソファに座って一呼吸置き、魔力に意識を集中。

 すると、何時ものように世界の全体の姿が目の前に映った。
 更に集中し、娘のいる小角族の集落の方に寄る。

 実は辺境の小さな集落など、今まで気にしたことが無かった。

 穏やかな者たちが集っていることを知っていた為、いさかいなど起きるはずもないと、日に数度の要務であっても確認は大まかな様子を見るだけ。

 しかし正直なところ、今回ばかりは好奇心が勝った。

 少しずつ、集落の細かい様子が見えてくる。
 すると、見覚えの無い男が、まさにあの時の娘に近寄っているのが見えた。

「……誰だ? なんと品の無い者だ……」

 彼は怪訝な表情で様子を見つめた。
 巻かれた角を生やし、少々ニヤ付いた薄気味の悪い笑みを浮かべ、あの娘に何かを言い寄っている。

………

「あなたは王子様のもとに行かれた娘さんではありませんか。なぜこちらに?? 」

 巻角の男が娘に尋ねる。

「え? え〜と……」

 娘は相変わらず呑気な様子で、男の質問に答えようとしている。娘のそばにいた不安そうな娘の母親が代わりに答えた。

「うちの娘は無事に戻ってこられたのです。王子様の御用は済みました、ですから王子様が帰してくださったんです」