◎恭介◎

極寒の冬が過ぎ春になった。
消化器には変わりないが後輩が入ってきたり
看護師たちの異動があったりと少し環境が変わった

...プルルル

俺の院内用携帯が鳴った

「はい」

『お忙しい中、すみません。
事務の竹中です。』

事務の人から電話が来るのは珍しい

「どうしました?」

『金森先生と話したいっていう女性がきています』

「え、誰だろう、名前聞いてますか?」

『名前教えてくれなくて』

「わかりました。向かいます」

身に覚えはないが
手が空いていたし院内の受付に向かった

「事務の竹中さんいますか」

「少々お待ち下さい」

受付について声をかけるとすぐ
中から女性が出てきてくれた

「竹中です。忙しいのにすみません。
そこの椅子に座ってる子が金森先生と話したいと言っていて...お知り合いですか?」

下を向いていて誰かわからない

「あの...」

声をかけたら少し顔を上げた

「あっ」

思い出した。
3ヶ月ほど前に親父のクリニックにきて
腹痛があって受診をすすめた子だ

そのあと一回だけここで会って逃げられたんだ

「わかりました、大丈夫です。
ありがとうございます。」

竹中さんにお礼を言ってから
彼女の隣に座った

「久しぶりですね。どうしたの?あれから病院いった?」

フリフリ

俯いて返事も首振りで答えるところ変わってない

「身体しんどくなってきた?」

「...」

「ちゃんと言葉で話してくれないとわからない」

「...」

「俺だって暇じゃない」

少し顔を上げて俺をみて
立ち上がった

「...忙しいのにすみません」

それだけボソッと言って
歩き出した

「なんか俺に用事があって来たんだろ」

「...」

「お腹痛いのか?」

少し立ち止まったけど
また歩き出した

「せっかく来たのにまた逃げるのか〜」

病院を出て行ってしまった

...プルルル

「はい、すぐ行きます」

病棟から呼び出しの電話だった

後を追うのをやめて病棟に戻った