「お待たせ」
金森先生がスクラブ姿で私の前に座った
私服じゃないと気分下がる
携帯で時間を見ると1時間経っていた
勉強してたら時間なんてあっという間だ
「遅い」
「ごめん
明日は休みだろ?」
明日は土曜日...だけど
土日バイトがある
先生にはバイトをしていること黙っている
だって言うといかせてくれない
行かせてもらえなかったら生活ができない
「休みだけど用がある」
「今日はここで点滴
明日、明後日は夜クリニックで点滴だ」
「ぜーーーったい嫌だ」
「お願い」
懇願するように手を合わせてきた
「用事あるってば」
「なんの?」
「もういいから早く診察するならささっとして帰らして」
「まだ俺、コーヒー買ったばっかだし
あやはもココア残ってるよ」
勉強に夢中で一口も飲んでなかった
急いで飲み干そうとした
「またそんなことしたら腹痛くなるぞ」
「...」
たしかに...
悔しい
「ゆっくり話しながら飲もうぜ」
周りを見渡せば患者さんや病院で働いてる人だらけ
スクラブ姿の金森先生と話してると周りから視線を感じる
「...周りの目が怖い」
「自意識過剰、みんな俺らなんかに興味ない」
「あるよ。先生モテるでしょ」
「さぁ?」
「...」
何も考えてくれてない先生を睨んだ
「そんなことより明日何があんの?」
「秘密
...休みの日まで干渉してこないで」
「言えないことでもすんの?」
「...」
「また隠し事か」
「...」
「わかった!彼氏か?」
「違うよ」
「ならなんだ?」
「行くなって言わない?」
「内容による」
「そうでしょ、だったら言わない」
「食べ放題行くとか飲み放題行くとか言われたら止めるしかないだろ」
「そんなんじゃない」
「じゃなに?」
「しつこい」
「言わないなら今日ここで入院して土日はここで過ごして」
「は?
本当に意味がわからない」
「土日何するか教えない時点で俺に隠したいことだろ?
隠されて状態が悪くなったら困る」
「大丈夫」
「大丈夫か大丈夫じゃないか決めるのは俺
ずっといってると思うけど」
「...」
「早く飲め、病棟の手配しとくから軽く診察して上あがれ」
ゆっくり飲めって言ったり早く飲めって言ったり忙しいなぁ
しかも意味わからない展開になってきたし
「帰る」
「俺の話聞いてる?
病棟上がれって言ってるんだけど」
「上がるわけないでしょう」
もうめんどくさい...
バイトって本当のこと言わないとダメかも
「早く飲め」
「わかった、言うから」
「明日明後日なにがある」
「バイト」
「なんの?」
「そこまで言わないといけないの?」
「うん」
「はぁ
朝から昼まではコンビニ、昼から夕方までは塾の講師、夜はバーで働いてる」
「初めて聞く話だな」
そりゃそうでしょ
隠してたもん
先週は入院してたから全部休みもらってたし...
隠さないといかしてもらえない
「記録もあるし来週も実習だし早く診察して帰る」
「俺、実習や国試は受けられるように努力するって約束したけどバイトはさせない」
「ね、言ってもいいことないでしょ」
「あやはの身体のためだ」
「バイトしないと生きていけない」
「病気をコントロールできるようになってからなしろ」
「...」
「バーのバイトって酒飲むのか?」
「最近はお腹の調子が悪くて飲まないけど昔はお客さんから頂いたら飲んでた」
「絶対にダメ、頼むからバイト行かずに大人しくしといて」
「...」
「まぁいいや、ちょっと診るから飲んだらいつもの部屋きて」
金森先生がコーヒーを飲み干して席を立った
「待ってよ、先に行ったら待ってた意味ない」
「部屋の準備しとく」
「すぐ飲むから待って」
「...わかった
待つからゆっくり飲め」
明らかに機嫌悪くなった
私はどうしたらいいのよ
ちゃんと言ったら言ったで機嫌悪くなる
ココアを飲んで席を立った
「行こう」
「おう」
いつもの部屋に入っていつも通りの診察
そして「点滴やれ」
「...」
帰って記録もあるし
明日バイトだしいま寝てられない
鎮静も眠剤のない点滴
できるか不安
前、奇跡的にできた時は眠くてフラフラだった
だからその様子を見て先生が入れてくれた
あーもう本当に嫌だ
でも機嫌悪くていまは言えない
明日のバイトにかかってる



