転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜

 ん? なぜか、ラビッツが急に黙り込んだぞ。食べることに集中している。せっかくだし、気になっていたことを聞いてみるか。

「ラビッツはさ、どっちを選ぶんだ?」
「え?」
「リュークか俺、どっちがいいんだ?」
「そんなの……リュークは無理でしょう」

 リュークが本命ってことか。無理だから諦めるしかないと。そんな悲しい顔、するなよ……。

 そうだよな、分かってた。
 主人公だもんな。

 ツンデレ好きな俺の一推しはラビッツだった。このまま結婚できるかもしれない、あのラビたんとあんなことやこんなことまで――と、何度も妄想した。

 でも、辛いよな。
 好きでもない相手と結婚するのは……。伏せる長い睫毛の下の瞳は潤んでいるようにも見える。

「婚約……解消したかったらしてやるからな」

 俯くラビッツが可哀想で、気づいたらそう口にしていた。

 親同士で決めた婚約の場合、互いの合意があれば比較的容易に解消ができる。ギャルゲー的に、ニコラがラビッツへ婚約破棄を突きつけやすい世界にする必要があったからだろう。

 リュークとラビッツが苦悩の末に惹かれ合う「ラビッツルート」に入ると、ニコラは「俺様に任せておけ!」と恋のキューピッド役を買って出る。そして、物語は一気に卒業記念パーティーへと飛び、そこで彼女に婚約破棄を告げるのだ。

 しばらく反省してこいと親にド叱られて、護衛付きで王宮を一時的に追い出されることになるが……それだけだ。結構楽しいぜと親指を立てているシーンがラストにあった。

 ラビッツ側からは立場的に婚約破棄も解消の提案もできない。だから、今ここにいるラビッツもリュークを諦めているんだろう。

「なんなのよ! あんた私のことが好きなんじゃないの!? さっきそんなこと言ってたじゃない」
「へ???」

 なんで突然、怒られるんだ? ここは感謝されるところなんじゃないか? どうしても俺が嫌なら身を引いてやるって……、嬉しい提案だよな?

「あー、雰囲気で言っただけってこと? やっぱりルリアン推しなのね! それともベル子? あの子も可愛いもんね!」 
「え? いや、俺はラビッツが一番好きだけど。でもほら、やっぱり結婚するのは好きな奴のがいいだろ?」
 
 リュークと結ばれたいんだよな???

 リュークが誰と結ばれるのかは分からないが、ルリアンとベル子――ことベルジェ・クリストフの人気が高かった。リュークが自分を選ぶわけがないと思ってしまうのも、無理はないのかもしれない。
 
「もういいわ。私、リュークを狙うから!」
「え? あ、ああ。そうだよな。さっきも、明らかにリュークに恋してる目をしてたもんな」
「そっ、それはっ……目の前に本物のリュークがいたから……っ、も、もう知らない! もう行くんだから! あんたはそこで一人で食べてなさいよ!」

 ラビッツは怒ったままサンドイッチを紙袋に詰め、足早にどこかへ行ってしまった。

 なんで怒ったんだ?
 どうしてだ?

 ラビッツの「ゲームの話ができると思ったのに、私のバカぁ……」という独り言は、聞こえない。

 乙女心は俺には難しすぎる……と思いながら、残りのサンドイッチを頬張った。