転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜

 落ち着こう、俺。こいつは昔から知っているラビッツだ。そう、一緒にたくさん遊んだ。俺が前世を思い出す前の話だが、幼児期なんて水遊びのあとにラビッツが自然に濡れた服を脱いでいたこともある。

 おおお!
 突然脳裏に、ゲームにはなかった過去の刺激的な思い出が!

「そうか、俺はラビッツの裸を見たことが――、」
「黙れ」
「ぐぁ!」

 手刀が顔にめりこんだ!

「いてぇよ!」
「あんた、やっぱりバカなのね」
「いや、思い出してみろよ。四歳くらいにさ――、」
「だから黙れ」
「ぐぁ!」

 いてぇ!

「いきなりそんな話を持ち出すなんて変態でしょ。あんた前世で変態だったわけ? 一応私、ここでは令嬢なのよ。酷い失言をさせないでちょうだい」

 確かに、今のは前世のノリなんだろうな。 

「いやいや、健全な男子高校生だ。おかしい……この体、不用意な言葉がスルスルと口から出る。さすがの俺もさっきのはおかしいと思ったぞ」

 ラビッツが転生者だと知って、変に動揺しているのかもしれない。あの神ゲーの中にいるという意識が、俺をおかしくさせている気もする。いや、同志を見つけた嬉しさからか?

 落ち着かなくては。
 刺激的な幼い頃の思い出は、夜まで封印しておこう。素晴らしい記憶力の持ち主になれたのには、ありがたみを感じる。

 深呼吸で冷静になろう。
 スーハースーハー。

「はぁ……それで王子が務まるの?」
「大丈夫だ。王子様モードを発動すればイケる」

 ゲームでも、たまにニコラがモードを切り替えるシーンがあった。今までもそれで王宮では乗り切っていた。

「ちょっとやってみなさいよ」
「えー。疲れるんだよなー、あれ」
「早く」
「はぁ……分かったよ」

 王子……王子……俺は王子。
 次期国王陛下だ。

「ラビッツ……入学早々、迷惑をかけてすまない。君と会えて少し浮かれていた。頭を冷やすとするよ。サンドイッチ、ありがとう。この埋め合わせは、いずれ必ず。では、また」

 爽やかにキラリと笑って立ち上がったところで、腕をガシッと掴まれた。

「なんで立ち去ろうとするのよ!」
「疲れるんだよ!」
「もういいわよ。普段のあんたに戻りなさいよ」
「わ、分かった……じゃ、サンドイッチをいただくな」
「ええ」

 もう一度座り直して、サンドイッチをもしゃもしゃと食べる。このギャルゲーでは「ご飯美味しい〜」なんてシーンもあったせいか、普通に美味い。シャキシャキのレタスもハムもトマトも、前世で食べたものと変わらない。文化レベルも、元の世界に近い。このゲームの制作者に感謝したい。