「ほらほら、トラが乗りたいと言ったんだ。オリヴィア嬢、トラを抱えたまま乗りな。ラビッツはあとで好きなだけ押してやろう」
「結構だと言ってるでしょう。昔のことに罪悪感を持ってるのかもしれないけれど、本当にもうどうでもいいの。それに、かつてのあなたはあなたじゃないし――、」
「分かった、私がオリヴィアさんを押すわ!」
「え?」
「へ?」
いきなり何言ってんだ?
ラビッツ?
「ほら。オリヴィアさん、乗って!」
「え、いえ、だから私は」
「バランス感覚悪いものね、ふるい落とされるのが怖いんでしょう」
「なんですって!」
「遊んでこなかったものね、私たちと。木登りは落ちるのが怖くて挑戦できなかったんでしょう。かけっこも負けるのが怖かった。だから、一緒に参加することから逃げたんでしょう?」
「ち、違うわよ! それに、あの時のあなたは今のあなたじゃないでしょう!?」
「似たようなものよ。あー、残念。すぐに落ちるオリヴィアさんが見たかったのに」
「うるさいのよ。乗ればいいんでしょう、乗れば!」
な、なんだ?
優雅ながらも恐る恐る台車に足を乗せて、オリヴィアがしゃがみ込んだ。安っぽい台車との対比が不思議な感じだ。ラビッツが、してやったりな顔でにやけた。
「そうよ、あとで私も押してもらうから」
「ふ、ふるい落としてやるわよ」
「やれるものならどーぞ!」
言葉とは裏腹に、ゆっくりとラビッツが台車を押す。
「速度が足りないにゃん。もっとゴーゴーにゃん!」
「言ったわね!」
「私は言ってないわよ!?」
なんだかんだ言って、オリヴィアもラビッツも楽しそうだ。笑顔が隠しきれず、二人とも笑い始めた。
俺は見守るのに徹しよう。
ラビッツも、オリヴィアに対して思うところがあるのだろう。
数日後、いたるところにビラが張られることになる。
「 料理用形状固定調味料」と魔法の併用に注意!
▶人体に使用した場合、顔などが固定されて戻らなくなる危険があります。料理にのみ使用してください。
「パチパチスパイス調味料」と魔法の併用に注意!
▶効果を高くする魔法との併用で、火災が起こる可能性があります。料理に使用する魔法調味料は一種類のみとしてください(料理の基本です)
現在、複数の事故が報告されていますと注意書きもある。どの講義でも先生から注意がなされる日も設けられた。
これで大丈夫だろう……たぶんな。



