転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜

「リューク様も、えっと。ごきげんよう。久しぶりね。元気だった?」

 頼むー。そんな恋する乙女みたいな顔を親友に向けないでくれー。しょっぱなから心が折れる……。

「水臭ぇよ、ラビッツ。元気そうだな。昔みたいにリュークって呼んでくれよ。調子が出ないぜ」
「そう呼んでいいならそうするわ。すごく逞しくなったわね。騎士学校も卒業したのよね」
「まぁな」

 なんだよ、この俺だけ除け者みたいないい雰囲気は! ていうか、ゲームでもこんな会話聞いたな!?

 いや、しかし前世に比べれば童顔ではあるものの俺はかなりのイケメンだ。金髪碧眼で顔はいい。おバカキャラだったし、ゲームのオープニングでも『お調子者なおバカ王子』という異名が表示されていたが、顔はいいんだ! 自信を持て、俺!

「じゃ、先に行くわね」

 今は入学式のために門をくぐってホールへと歩いているところだ。桜の花びらが風に揺れる。柔らかい春の空気が俺たちを包む。

「待てよ、ラビッツ」

 俺は彼女を呼び止めた。
  
「なに?」
「せっかく学園で一緒に過ごせるんだしさ、たくさん話そうぜ」
「……あんたとは、いつか嫌でもたくさん話さなきゃならない日がくるじゃない」

 結婚したらってことか。ガックリくるな。彼女の心を俺に向けるなんて、できるのだろうか。陰キャだった俺なんかに。

「ねぇ」

 ふふっと彼女が俺たちに意味深に微笑んだ。風に舞い散る花びらの中に佇む彼女はどこか幻想的だ。

 ――俺は知っている、このシーンを。
 
 澄んだ歌声がどこからか聞こえるようだ。あのオープニング曲『はじまりの(うた)』は最高だった。せっかくのゲーム世界なんだから、音楽も流れてほしい。

 さっきまでのツンツンな態度が嘘のような柔らかい笑みを浮かべて、彼女が小さく俺たちに向けて呟く。俺はその言葉も知っている。

「あの日の約束、覚えてる?」

 きたー!
 オープニング曲のキャラ紹介でも使われていた神台詞きたー!

 ラビたん!
 ラビたん!
 ラビたん!
 ラビたん!

 ラビッツが踵を返して駆けていく。
 俺はたまらずに叫んだ。

「ラビッツ!」

 彼女が立ち止まる。

「俺、お前が好きだから! 絶対にお前を振り向かせるから!」

 俺は気づいたらゲームにはなかった行動をしていたわけで――もう一度振り向いた彼女は、なぜか無表情だった。

 俺をじっと見つめたあとに、また前を向いて走り去っていく。

「青春だな」

 ボソッと呟くリュークの言葉に、冷静になる。

「なぁ、リューク。その気のない婚約者に大声で好きだと言われた女ってどんな気持ちになると思う?」
「まぁ、迷惑だな」
「だよな……」

 ゲームと同じ台詞を聞いてテンションがマックスに達してしまった。俺はアホだ……婚約者とはいえ、せめてもう少しあいつが俺を好きになってくれないと、迷惑すぎる。

 自信はないけど。

「なぁ、リューク」

 もう一度、地味に落ち込みながら話しかける。

「なんだよ」
「ラビッツの気持ちを理解したいから、さっきの俺の台詞を同じように叫んでくれないか」
「俺の趣味を疑われるだろ!」

 そうだな、想像するだけで気持ち悪い。俺は主人公ではない。これからは気をつけよう。