転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜

 ――ザワザワザワザワ。

 不意に、とある教室から複数の人の声が聞こえてきた。研究棟の一室。しかし、今日は日曜日だ。生徒たちのほとんどはレクリエーション棟や学生館、庭園、図書館などにいるはず。不審に思って足を止めた。

 ボソッとラビッツに何かを呟かれるが、よく聞こえない。

「どうした」

 彼女の耳元へ顔を寄せ、囁き声で尋ねる。

「扉の近く。寄ってみる」

 ラビッツも小さな声で俺に囁いた。頷いて、扉のすぐ側まで移動し、耳をすませる。

「これさー、やばいんじゃねー」
「やばいよなー。なんかふわふわするー」
「俺もー、ふわふわー」
「これ、あれだよなー」
「おー、ぜってーあれー」
「なんであれができたんだろうなー」
「さーなー」

 ……ろれつの回らない口調。

 とりあえず、何かまずいことをしているのは確かだ。中にいるのは十人くらいか。実験で妙なものが出来上がってしまった可能性が高い。このまま放置するわけにはいかないだろう。

「オリヴィアに連絡をとる」

 ラビッツが頷くのを見て、こめかみに指をあてる。……この耳鳴り、どうにも好きにはなれない。

『研究棟3-B。十人程度何かの実験で失敗した模様。教室へ突入する』
『学園スタッフを向かわせる。隊員は必要?』

 ……パトロール隊メンバーか。

『必要ない。酩酊しているような口調。スタッフは廊下で待機を』

 返事はない。分かったということだろう。無駄なメッセージの飛ばし合いは疲れるだけだからな。

「突入する」
「……大丈夫?」

 ラビッツが心配そうに見上げてくる。

 大丈夫なわけがない。イレギュラーな事態は怖い。でも……スタッフが来るまでに証拠を隠滅されても困る。相手は学生だろうし、事情も把握したい。

「たぶんな」

 任せろとかっこつけるべきだったかもしれない。とりあえず目の前のことを片付けよう。ひとつ深呼吸して、と。

 俺は王子、俺は王子、俺は王子……よし。

 ――ガチャリ。

 扉を開けた瞬間、室内にいた全員の視線がこちらに向けられた。 実験室のようだ。蒸留器やポット、オイルの瓶や試験管などが目に入る。生徒たちが集まっている机の上には、たくさんの紙コップと液体入りのピッチャーが置かれていた。

  貴族が三人、富裕層が五人。全員が先輩だ。学園にいる学生や教師の顔は、立場上すべて記憶させられている。見覚えのない侵入者には、王族である俺自身が警戒しなくてはならないからだ。

「あ……ニコラ様」

 そのうちの一人、比較的まともそうな生徒が声を発した。顔見知りの貴族だ。他の者たちは、やはり様子がおかしい。