転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜

 そうして今日は日曜。パトロール隊としては集まらない。が……ラビッツと二人で学園内を歩いている。今朝、食堂でリュークと朝食をとっていたらラビッツが寄ってきて、そうお願い(?)されたからだ。

 茶トラ猫のトラは食堂でもオリヴィアの側にいた。賢い猫であることから人語を話せる魔道具を使い、国の中枢部で動けるようオリヴィア直々に訓練中と彼女が説明していた。人では感じ取れない気配も察知できるため、期待の猫と紹介されてトラも得意気に見えた。

 俺はその説明の時だけ呼ばれたから隣にいて適当に「頼りにしているよ」と頷いておいた。国の中枢という単語をあえて出したのは、譲ってくれなどと誰かに頼まれないようにだろう。

 ま、あの猫はオリヴィアに任せよう。

 問題はそのあとだ。ラビッツが不機嫌そうな顔で、「あとで私に付き合って。強制だから」と告げてきた。 ……が、それよりも何よりも今もっとも気になっているのは、この手だ。

「ラビッツ」
「なによ」
「ずっと俺の服の袖を掴んでる気がするけど」
「昨日もそうだったでしょ」
「……手を繋ぐ気は?」
「ない」

 どうしてだ。

「いきなり転移しなきゃならないような事態は、そうそう起きないと思うぞ」
「嫌だって言うわけ?」
「いやいや、嬉しい」
「ならいいじゃない」
「手を繋いだら、もっと嬉しい」
「絶対にいや」

 なんでだ。

 分からない。少しは距離が縮まった気がするのに。きゅっと服を掴んでくれているのに、どうして手を繋ぐのは駄目なんだ! そもそもなんで掴んでるんだ!

 女の子は難しすぎる。

 ……ま、いいか。嫌われていないことだけは確かだ。前世を思えば、女の子に服を掴まれたことすらないのだ。過度な期待はせず、このささやかな幸せを噛みしめる方向にシフトしよう。

 今は二人でひたすら学園内をぶらついている。ラビッツの転移魔法は、行ったことのない場所へは飛べない。いつ何が起きるか分からないから、学園内のあらゆる場所を歩いて記憶しておきたい、ということらしい。

 俺はそれに付き合っているというわけだ。ついでに、デート気分をのほほんと楽しんでいる。ラビッツのほうは昨日のこともあり、予期せぬ事態を警戒して俺を誘ったのかもしれない。

 普段は用のない校舎まで見て回る。転移先として記憶するのは、特定の部屋でなくとも目の前の廊下で十分だ。講義棟、研究棟、トレーニング棟、実習棟……。風景を眺めながら歩いていると、この学園には本当に多くの棟があり、教室移動が大変そうだと改めて思う。