転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜

 高校の入学式を翌日に控えた午後。

 駅から少し歩いた先にある大きな緑地公園は、春の陽気に包まれていた。家族連れやカップルの笑い声が風に混ざる中で、俺の心臓の鼓動だけがやけに大きく響く。

 スマホを見ても当然ながら、まだ通知はない。約束の時間の三十分前だからだ。

『着いたら連絡するね』

 彼女の最後のメッセージを見つめながら、息を整える。

「……落ち着こう」

 風が頬を撫でる。
 ベンチの向こうには桜の木。花びらがひらひらと舞っている。

 ――そして、ふと。

 視界の先に、一人の女の子が歩いてくるのが見えた。

 白いカーディガン。
 風に揺れる長い黒髪。
 少し戸惑ったようにきょろきょろと周りを見て――俺と、目が合った。

 胸の奥が熱くなる。

 彼女が鞄の中から何かを取り出し、こちらに向けて軽く振った。

 ――ウサギのフェルト人形。

 あの世界で、ラビッツが俺に作ってくれたものと同じ。

 間違いない。
 ラビッツだ!

 走り出したいのに、足が震える。彼女がゆっくりと近づいてきた。

「転生人さん?」
「はい……っ」

 あのTシャツを、俺は今着ている。

「白石晴真さん?」
「はい……っ」
「ニコラ……さん?」
「はい……っ」

 涙があふれる。

「もうっ……立場が逆でしょ。こっちでも涙腺は弱いの?」
「よ、弱いんだよ。悪いかよぅ」
「悪くはないわよ」

 互いに笑いながら、涙を拭った。

「ラビッツ。いや、望月美羽さん」
「美羽でいいわよ、晴真」
「ああ、美羽」 

 世界が変わっても。
 名前が変わっても。
 姿が変わっても。

 ――また、会えた。

 公園の風が通り抜けていく。遠くの子供の笑い声。鳥の鳴き声。全てが俺たちへの祝福のように響く。

「ねぇ、今のあなたのことを教えてよ、晴真」
「んー、そうだな。明日から高校デビューするぞと張り切っていたけど、もうデビュー済みだな! なにせ彼女持ちだ。リア充へと変身を遂げた白石晴真です。よろしく!」
「……彼女って誰?」

 目が怖い!

「え、み、美羽……」
「私、告白されてないけど」

 もう付き合った気でいたぞ。
 そうか、まだだったのか。

「俺と、結婚してください!」
「……重すぎね。扇子がないのが残念よ」
「そんなぁ。じゃ、俺の恋人になってください!」
「それって、告白かなぁ」
「あ、す、好きです!」

 なんだかグダグダだぞ!?

「こっちの私とは全然話してないじゃない」
「魂が惹かれ合ってると思います!」
「相変わらず、ムードづくりがゼロ点ね」

 くすくすと笑う美羽。
 なんだか、誤魔化されている気がする。