私がおばあちゃんの歳の離れたお姉さん――という関係の親戚の家の片づけを手伝うことになったのは、偶然だった。
高校に入る前の春休み。親戚が集まって、古い家の荷物整理をしていた。
「あの子の部屋は二階の突き当たりらしいわ。行ってらっしゃい。私たちはまず、一階を片付けるから」
「……うん」
おばあちゃんのお姉さんは、もう八十歳後半。家事をしによくその息子夫婦――つまり私のお母さんの従兄弟とその奥さんがここに来ていたらしいけど、施設に入ることが決まった。旦那さんが入っている施設に空きが出たので、そこで一緒に過ごせることになったらしい。
さっき布団で横になっているそのおばあちゃんに挨拶はしたけど、「元気かい。むかぁし、一度会ったことがあったね。今日は来てくれてありがとね。元気かい。むかぁし一度会ったことがあったね」と同じ話を何十回も繰り返していた。
一番、何度も繰り返す話は一つ。
「颯太のね、漫画とか持ってってやって。大事にしてたんだよ。大事にね。でも颯太は男の子だからね。好みが違うかもしれんね。そしたらあの子にあげるからあの、あの――、助けた子にね。トラックから守ってやったんだよ、颯太がね。颯太のね、漫画とか持ってやって。大事にしてたんだよ」
その言葉を、何度も、何度も、涙をこぼしながら繰り返していた。私は黙って頷くことしかできなかった。
気持ちが重いし、遺品だと思うと正直あまり持って帰る気にはなれない。お母さんから「生きていた時のあの子の痕跡を残したいって気持ちが強いみたい。一冊でも選んでくれたら、たぶん気が済むと思うから」と説得されてここに来た。お母さんの従兄弟の子供はもう成人しているし、家も近いからという理由で、私にその役目が回ってきたというわけだ。
トントンと階段を上り、二階の部屋へ。
扉をギギィと開ける。
静かな、少し埃っぽい空気。
机の上には古そうなタブレットや勉強道具。
クローゼットには、学校の制服。
「……本当に、そのままにしてたんだ」
どこか、懐かしい匂いがした。
理由は分からない。本の匂いかもしれない。なぜか胸がざわついた。
たくさんの漫画がギッシリと本棚に入っている。古いパソコンも置いてある。すぐ横には、ヘッドホンとゲームと、その設定資料集……?
その表紙を見た瞬間――胸がドクンと鳴った。
『星が空へと昇る世界で 〜Last Memory〜』
私は、この世界を――知っている?
無意識のうちに設定資料集を開いていた。埃なんて、どうでもよかった。
「ニコラ・スタッドボルト……」
キャラ紹介の中で、金髪で青い瞳の青年が笑っていた。お調子者なおバカ王子。
「バカだけど……バカじゃないでしょ」
なぜか、そう思った。
急いでそのゲームについてスマホで検索する。このゲームメーカーの信者は多いようで、リメイクや移植版が今でも販売されている。このゲームも、新しいゲーム機でプレイできるらしい。
――今すぐ、やりたい。
胸が焦げるようだ。指が震えて、そうしなければという焦燥感に襲われる。
「どうして、なの……」
遠い夢の中で、誰かが自分の名前を呼んでいたような。誰かを愛おしく思う気持ちが胸の奥から湧いてくる。
「……なに、これ……」
ここにはないはずの光が見えるようだ。
ただただ、愛しい。
ぼやけたその部屋で、涙が止まらなかった。
私はこの日、設定資料集だけを持ち帰った。ゲームは古すぎて、今のパソコンでは動かないと思ったからだ。
そうして私は移植されたこのゲームをプレイし――、
思い出した。
あの、かけがえのない日々を。
私はあの世界にいた。
彼と出会い、恋をして、共に生き、そして――見送った。
高校生で突然若くして病に倒れた私が、幸せを見つけた場所。子供を産んで孫にも恵まれた。
あの声。
笑い合った時間。
そして――彼の最期。
輪廻転生ってあるのね……。
かつての婚約者で。
結婚相手で。
大好きな大好きな最愛の人。
また、会いたい。
この世界で――もう一度、あなたに。
高校に入る前の春休み。親戚が集まって、古い家の荷物整理をしていた。
「あの子の部屋は二階の突き当たりらしいわ。行ってらっしゃい。私たちはまず、一階を片付けるから」
「……うん」
おばあちゃんのお姉さんは、もう八十歳後半。家事をしによくその息子夫婦――つまり私のお母さんの従兄弟とその奥さんがここに来ていたらしいけど、施設に入ることが決まった。旦那さんが入っている施設に空きが出たので、そこで一緒に過ごせることになったらしい。
さっき布団で横になっているそのおばあちゃんに挨拶はしたけど、「元気かい。むかぁし、一度会ったことがあったね。今日は来てくれてありがとね。元気かい。むかぁし一度会ったことがあったね」と同じ話を何十回も繰り返していた。
一番、何度も繰り返す話は一つ。
「颯太のね、漫画とか持ってってやって。大事にしてたんだよ。大事にね。でも颯太は男の子だからね。好みが違うかもしれんね。そしたらあの子にあげるからあの、あの――、助けた子にね。トラックから守ってやったんだよ、颯太がね。颯太のね、漫画とか持ってやって。大事にしてたんだよ」
その言葉を、何度も、何度も、涙をこぼしながら繰り返していた。私は黙って頷くことしかできなかった。
気持ちが重いし、遺品だと思うと正直あまり持って帰る気にはなれない。お母さんから「生きていた時のあの子の痕跡を残したいって気持ちが強いみたい。一冊でも選んでくれたら、たぶん気が済むと思うから」と説得されてここに来た。お母さんの従兄弟の子供はもう成人しているし、家も近いからという理由で、私にその役目が回ってきたというわけだ。
トントンと階段を上り、二階の部屋へ。
扉をギギィと開ける。
静かな、少し埃っぽい空気。
机の上には古そうなタブレットや勉強道具。
クローゼットには、学校の制服。
「……本当に、そのままにしてたんだ」
どこか、懐かしい匂いがした。
理由は分からない。本の匂いかもしれない。なぜか胸がざわついた。
たくさんの漫画がギッシリと本棚に入っている。古いパソコンも置いてある。すぐ横には、ヘッドホンとゲームと、その設定資料集……?
その表紙を見た瞬間――胸がドクンと鳴った。
『星が空へと昇る世界で 〜Last Memory〜』
私は、この世界を――知っている?
無意識のうちに設定資料集を開いていた。埃なんて、どうでもよかった。
「ニコラ・スタッドボルト……」
キャラ紹介の中で、金髪で青い瞳の青年が笑っていた。お調子者なおバカ王子。
「バカだけど……バカじゃないでしょ」
なぜか、そう思った。
急いでそのゲームについてスマホで検索する。このゲームメーカーの信者は多いようで、リメイクや移植版が今でも販売されている。このゲームも、新しいゲーム機でプレイできるらしい。
――今すぐ、やりたい。
胸が焦げるようだ。指が震えて、そうしなければという焦燥感に襲われる。
「どうして、なの……」
遠い夢の中で、誰かが自分の名前を呼んでいたような。誰かを愛おしく思う気持ちが胸の奥から湧いてくる。
「……なに、これ……」
ここにはないはずの光が見えるようだ。
ただただ、愛しい。
ぼやけたその部屋で、涙が止まらなかった。
私はこの日、設定資料集だけを持ち帰った。ゲームは古すぎて、今のパソコンでは動かないと思ったからだ。
そうして私は移植されたこのゲームをプレイし――、
思い出した。
あの、かけがえのない日々を。
私はあの世界にいた。
彼と出会い、恋をして、共に生き、そして――見送った。
高校生で突然若くして病に倒れた私が、幸せを見つけた場所。子供を産んで孫にも恵まれた。
あの声。
笑い合った時間。
そして――彼の最期。
輪廻転生ってあるのね……。
かつての婚約者で。
結婚相手で。
大好きな大好きな最愛の人。
また、会いたい。
この世界で――もう一度、あなたに。



