転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜

 少女は、突然そこへと降り立った。まるで長い夢から、やっと目を覚ましたかのように。

「ここは……?」

 かつて、約束を交わした場所。

 少女はその外にいた。
 決して出られなかったはずの、門の外側に。

 ふと胸に手を当てた。
 鼓動が聞こえる。
 懐かしい命の息吹が、そこにある。

 ——みんなが、呼んでいる。

 少女を縛っていたはずの門。
 その向こう側には、光がある。
 皆の笑顔が。
 楽しかった時間がそこにある。

「行かなきゃ」

 一歩、また一歩。

 少女は駆け出した。
 髪が風に舞い、真新しい制服の裾がひるがえる。春の空気が、やさしく頬を撫でた。

 校舎が見えてくる。
 鐘の音が響く。

「——待ってて」

 みんなはいるだろうか。

 わずかな不安と期待。
 息を切らしながら、涙が滲む。

 ――会える、会える、また会える!

 少女は走り続ける。

 薄い水色のツインテールを左右に揺らしながら。黄色いリボンをぴょんぴょんと跳ねさせて。

「セイナ・ラミエルさんですか」

 やや興奮した様子の職員に話しかけられた。

「は、はいっ」
「ホールで始業式が行われています。着きましたら、そのままお入りください」
「はいっ! ありがとうございます!」

 ひたすら走る。息が切れても足は止まらない。ホールの前に辿り着くと、またも職員さんが涙ぐんだ顔で立っていた。

「……セイナ・ラミエルさん、ですね」
「はいっ」

 職員は深くうなずいた。

「行ってください。今は学園長の話の最中ですが、どうぞ遠慮なく中断していただいて結構です。そう承っています」

 少女の胸がどくんと跳ねる。

 ――みんな、待っててくれたんだ。

 両手を胸の前でぎゅっと握る。
 涙をこらえて、小さく息を整えた。

「行って……きます」

 少女はゆっくりと一歩を踏み出した。重厚な扉の前に立ち、取っ手に手をかける。冷たい金属の感触が、今この瞬間が現実なのだと伝えてくる。

 小さく呟く。

「——ただいま」

 扉を勢いよく開いた。

 目を見開いた生徒たちの視線が、その少女に注がれる。学園長が言葉を失い、そして――、

「セイナッ!!!」

 リュークの声がホールに響いた。

 誰もが道を開け、リュークは彼女の元へ一直線に向かう。

 ――どれほど、この瞬間を夢に見ただろう。

 何度、届かない空を見上げただろう。
 今は見えないその光を探すように。
 信じていた。
 あの日の約束を。

 リュークは勢いのまま彼女を強く抱きしめた。
 
 確かな体温。
 柔らかな髪の感触。

「……帰ってきた、んだな……!」
「うんっ……!」

 ざわめいていた生徒たちの間から、嗚咽と泣き声が広がる。

「よかった……!」
「待ってたんだからっ!」
「遅いのよ、まったく……っ」

 生徒同士で泣きながら、喜びを分かち合う。気が遠くなるような長い冬が、まるで今終わったように。

 リュークはセイナの肩をそっと離し、その顔を両手で包んだ。涙を指で拭いながら、かすれた声で言った。

「おかえり」
「……ただいま」

 その言葉を合図に、ホール中から拍手が湧き上がった。まるでこの世界そのものが、祝福しているかのように。

 これから始まる。
 約束の、続きの物語が――。