転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜

「始まったね」

 セイナが少し寂しそうな、でも夢見るような瞳で光の塔を見つめている。

 夢結びの月。
 世界中で、強い願いの光が見えることもある。そんな月。今は、たくさんの光が学園の内外から生み出されている。

 この街の伝統行事で。
 毎年、見ていた景色だ。
 今年から親友のニコラが生み出す景色。

 ――それだけのはずだった。

「セ、セイナちゃん……透けて、る……?」

 ルリアンの震え声に、全員が息を呑んだ。彼女の輪郭が淡く揺れ、光と同じように空へ溶けようとしている。

 次の瞬間――セイナは、旧校舎の屋上の柵をふわりと越えた。わずかなスペースに降り立ってこちらを向く。

「あ、危ないです! セイナちゃん!」

 ルリアンの叫び声にも、穏やかに微笑むだけだ。

「今までありがとう、みんな。短い間だったけど、すごく楽しかった。元気でね」
「……!!!」

 パトロール隊の全員が息を呑む。
 やっぱり、そのつもりだったか。

「……違うだろう」

 自分でも驚くほど低い声が出た。

「え?」
「来年になったら、また俺たちの前に現れるんだろう」
「……リュークくん」

 透けたままのセイナが困ったように笑った。笑顔の奥には変わらない決意がある。

「あはは、そうだったね。でも、ごめん。今はちゃんと皆とお別れしたいの」

 そう……だよな。

 分かっていた。来年、謎の転校生としてセイナが現れる話を何度も一緒にした。でも……現実感がなかった。空へ還ることを決めている顔をしていた。

 俺の言葉は届いていないと、知っていた。

「ふざけんなっ……!!!」

 ありったけの声で叫ぶ。

「お前だけが気分よく還るのかよ!」
「…………っ」
「お前だけがサッパリと、残された人の気持ちも考えずに還るのかよっ!」
「な――っ」

 互いの視線が、夜空の下でぶつかる。
 やっと、セイナの笑顔が消えた。 

「……何も知らないくせに……。私はずっと、ここに縛られていたんだよ! 見るだけだった! どこにも行けず! 私だけ時間が止まったままで! それがどんなに辛いかなんて、誰にも分かりっこない!」

 笑顔で別れようとするセイナを、俺はずっと苛立ちと共に見ていた。

「それなら俺はどうなるんだよ!」
「そん、なの……っ!」
「好きな女と一生会えなくなる俺を、ないがしろにして自分だけ笑って立ち去るのかよ! ずるすぎるだろう!」

 セイナの顔がくしゃくしゃに歪む。 

「私じゃなくたっていい! リュークくんには未来があるじゃない!」
「お前にだってある!」
「ないよ!」
「ある! あると信じろ! お前が信じなきゃ、奇跡は起きない!」
「き、せき……」

 セイナの瞳が揺れた。