転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜

 光の塔は、学園の旧校舎の近くにそびえる白亜の塔だ。螺旋階段で頂上まで登れる。頂上は円形の祭壇で、開かれた空間となっている。

 いつもは人のいない場所。

 けれど今は、夢結びの儀のために集まった生徒たちが塔をぐるりと囲み、張られたロープの向こう側から息を呑んでこちらを見つめていた。夕日が彼らの顔を赤々と照らしている。

 ――昼の名残が夜に溶けていく。

 ロープの内側には、俺の侍従と共にラビッツもいる。婚約者として、そして俺を支える者として。

 祭壇で杖を掲げ、定められた祈りの詞を口にする。

「――ここに、我らが願いを結び天に還そう。世界を守りし女神よ、聞き届け給え」

 自分の声が震えて聞こえる。

 本来なら胸が踊る場面のはずだ。ゲームで見た時は、光が昇るシーンに鳥肌が立つほど感動した。いよいよラストが迫ってくるぞと。

 けれど、今は違う。リュークの顔が……あの言葉が頭から離れない。

『当たり前の毎日が怖いんだ』

 思い出した瞬間、胸が締めつけられる。

 ――大丈夫、大丈夫だ。

 信じろ。
 自分を信じろ。
 皆を信じろ。
 ラビッツを信じろ。
 セイナを信じろ。
 リュークを信じろ。

 この世界を……信じるんだ。

 なぁ、女神。
 俺をわざわざ転生させたんだ。まさか、親友の悲恋なんて結末を用意してないよな?

 自分の中から不思議な力が外へと解き放たれる。やがて、どこからか淡い球体の光が生まれた。生徒たちの願い、希望――それらが無数の輝きとなって形を成す。

 王都が光に満ちる。
 学園が光に満たされる。

 ゆらゆらと空へ向かう数え切れない誰かの願い。まばゆいばかりの光に彩られて、生徒たちから歓声があがる。

 まるで世界から取り残されているようだ。誰もが楽しそうに浮かれているのに……俺は。いや、俺たちは……。 

 ――王族の務めは果たした。

 侍従へと手で合図を送る。王宮へ送られていた映像が止められたはずだ。

 大きな拍手の中、俺は大きく息を吸った。

「王子としての務めは今、終えた。ここからは一人の生徒、ニコラ・スタッドボルトとして皆に頼みたいことがある。その話をする前に少しだけ待ってほしい」

 ラビッツと視線を交わす。

「ラビッツ・ロマンシカ、こちらへ」

 彼女が打ち合わせ通りに光の塔を昇る。俺の元へとゆったりと向かう。
 ただの、時間稼ぎだ。

 頼むぞ……!

 俺は、旧校舎の屋上へと目をやった。仲間たちの姿を、この目で確かめるように。セイナとリュークは今、そこにいる。

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