転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜

「伝統行事である夢結びの儀をやめることは……できない」
「ああ」
「でもあれは、ただ願いが光となって見えるだけなんだ。世界中でもこの月になるとあちこちで光が空を舞う。夢結びの儀は、小さな願いまで光に変えて空へと届けるだけで――、」
「セイナはどうなるんだ」

 言いたくない……。
 言いたくないんだよ。

「本人が望んでいなければ空には還れない。今までのように。本人が望むなら……」
「……っ」
「本人次第なんだ」

 リュークの顔が歪む。

「あいつは……天に還らなくてはと。そう、思っている」

 どうしたらいいんだ。
 俺は、どうしたら……。

 言葉を失った俺たちの間に、冷たい風が吹き抜ける。枝を落とした冬の木々が揺れ、乾いた冬の空気からは、春の気配をまるで感じない。

「ねぇ」

 ラビッツが、なぜか希望を思わせるような透明感のある声を発した。

「あの日の約束、覚えてる?」

 さっきまで張り詰めていた空気が、突然ほぐれた。

「あの、日……」
「幼い頃に約束したわよね。ニコラが夢結びの儀の話をした時に」

 そうだ。
 願いが見えるだけなんて、つまらない。俺は皆の願いを叶える夢結びの儀をするんだって、二人に宣言したんだ。

「あの時か。俺はニコラに『猫になりたい奴が猫になったら大変だぞ。世の中しっちゃかめっちゃかだ』なんて突っ込んだんだよな」
「そう。それで俺は少し悩んで、仕方ないから俺たちの願いだけ叶えようと方針転換した」
「ええ。そして私が、三人とも同じ願いを天に託すなら、きっと叶うわと言ったのよ」

 ――あの時に、約束した。

 俺が初めて夢結びの儀を行う時。
 三人で同じ願いを天に託そうと。

 転生前なのに懐かしい。

『未来の俺たちは、どんな願いを持っているんだろうな』
『いいこと考えた! 明日は皆、誰にも怒られませんようにとかどうだ?』
『ニコラ、そんなに毎日怒られてるの?』
『まぁな!』
『もっと、大きな願いにしようぜ……』
『一ヶ月間、誰にも怒られませんようにとかか?』
『はぁ……。まったく、ニコラはニコラだな。世界平和とかでいいじゃないか』
『私もそれに賛成ね』
『今だって平和だろう!』
『じゃ、未来永劫の世界平和』
『もっと切実な願いがいい……。達成感があるやつ』

 それは幼い頃の小さな約束で。アナザーストーリーに繋がる大切な思い出で。俺が泣きながら見つめた画面の中の回想でもあって。

『ははっ。じゃ、この中の誰かの切実な願いを叶えてくれよ、ニコラ』
『そうね。頼んだわよ、ニコラ』
『おう! どうしても叶えたい願いがあれば任せとけ! 三人で祈れば泥船じゃなくなるさ』

 今は、違う未来へと向かうための――。