転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜

「悪いな、こんなところまで」

 夢結びの儀の前日、リュークに呼び出された。湖のほとりには、俺とラビッツ、そしてリュークの三人だけだ。

 冬の冷たく澄み切った空気が頬を撫で、ぶるりと震える。

「リューク……」
「二人には申し訳ないと思ってるんだ」
「え?」

 リュークは普段、どれだけ苦しくてもそれを見せない。けれど、最近は心ここにあらずの状態が続いていた。

「わざと盛り上げてくれていると分かってた」
「…………」
「俺たちの前で二人がイチャつかなくなったことも分かってた。気遣ってくれてたよな」
「イ、イチャついて、は……」
「リュークはどうするつもりなんだ」

 あの、アナザーストーリーの光景が脳裏に浮かぶ。

 リュークとルリアンが結ばれ、セイナを妹のように可愛がり、絆を深める。夢結びの儀のあとにセイナが天に還り――それから何年も経ち、セイナにそっくりな子どもが生まれる。三人で手を繋いで歩く光景だ。

 もう、その未来への道は閉ざされた。

「当たり前の毎日が怖いんだ」
「え……」

 まさか、リュークが弱音を吐くなんて。

「あいつを皆が、最初からいたものだと思っている」
「ああ」
「それも、もうすぐ消える」
「……そうだな」
「同じものを見て笑ったり驚いたり。そんな当たり前が、なくなるんだ」
「…………」
「ずっと一緒にいたよ。皆に見えない時だって、あいつは台車に乗って笑ったり、団子を見て食べたいと騒いでいた」
「…………っ」

 いたのか。
 ずっと、いたのか。

 アナザーストーリーは秋から始まっていたから……俺はゲームの記憶によって、目が曇っていたんだな。

 俺は、大馬鹿者だ。

 リュークがここまで弱さを見せるのは、俺とラビッツの前だけなのだろう。胸が痛い。彼女の存在が消える可能性を思うと、何も言えない。

「セイナをこの世に繋ぎ止めておくことはできないのか、ニコラ」

 ここまで……追い詰められていたのか。バッサリとあの踊るくま人形を浄化したリュークが、そんな言葉を吐くくらいに。