転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜

「お前の側にいたい」

 なんて、真っ直ぐな目をするんだろう。

「思念体は人間じゃないよ」
「そんなの、関係ない」
「……子供もできないよ」
「え、あ」

 赤くなっちゃった。
 可愛いな。

 私相手に赤くなってくれる。私はそんな人がほしかった。私も、ドキドキして赤くなれる。そんな人を見つけてみたかった。

 今の私も、同じような顔をしてるのかな。

「お前が好きだ」

 いきなりだった。

 白い息が空に溶けていくのを見ながら、私は瞬きも忘れた。胸の奥が熱くなる。リュークくんの瞳は真っ直ぐで、逃げ場なんてない。

「……、言っちゃダメだよ」

 私はずっと、恋をしてみたかったんだ。

 人間だった頃に、憧れていた。
 もう叶わなくなって気持ちに蓋をした。恋に憧れていたことすら、なかったことにした。

「お前はどうなんだ」
「リュークくんは、私のことを忘れないといけないんだよ。他の誰かと一緒にならないといけない。未来のない私じゃダメ。私に縛りつけちゃダメで……」
「お前が好きだ。俺は、今のお前の気持ちが知りたいんだ」

 全然分かってない。
 分かってくれない。
 消えなきゃいけない私のことを。

「お前が好きだ」

 繰り返される言葉。
 欲しかった言葉。

 ……生きている時に。

「お前はどうなんだ」

 もう一度、聞かれた。
 胸が苦しくて息が浅くなる。閉じ込めていた何かが暴れ狂いそうだ。衝動を止められない。

 なんて残酷な質問なんだろう。

 ――心が爆ぜる。

「好きに決まってるよっ……!」

 空気が震えた。目の奥が熱くて、視界が滲む。涙がボロボロと零れ落ちて止められない。

「恋人になりたいよ! あちこちデートだってしてみたいよ! 同じ時間を過ごしたいよ! そんなの決まってるじゃん! 好きじゃないわけないよ! 私が何年望んでたと思ってるの! どれだけの月日を……ずっとずっと、誰かとこうやって過ごしたかったんだから! 私っ、私の方が絶対にリュークくんのことが好きだよ……なんで私だけ消えなきゃいけないの……意味分かんないよ……。でも、私もういないもん。いないんだよ……。死んじゃったの。リュークくんの幸せを祈る私でいたいの。分かってよ……!」

 ずっと隠していた想いが、空気を裂く。

「セイナ……」

 彼が私を力強く抱きしめた。

「分かってって……言ってるじゃん」
「ああ。いつか結婚でもするか」
「わ、私、ここから出られなっ――」
「子供もつくるか」
「だから、私は人間じゃっ――」
「あちこちデートしよう。一緒にたくさんの景色を見よう」

 そんなの、夢物語だ。

「子供は何人がいいんだ?」

 そっか。
 これは、ただの夢物語だ。
 空想上の話なんだ。

「……二人は欲しいかも」
「男の子か? それとも女の子か?」
「どっちもかな」
「欲張りだな」

 夢くらい、見てもいいのかもしれない。

 体が離される。
 私もリュークくんも、涙で顔がびしょびしょだ。

「春になったら転校生が来るんだ」
「転校生?」
「ああ。名前はセイナ・ラミエル。どこから来たのかも分からない謎の転校生だ」

 なんて素敵な夢だろう。
 今まで、夢を見ることすらできなかった。

 次の春、きっと私はいないけど……。

「うぎゅぅ。謎の転校生になるんだ、私」
「ああ、謎だからな。最初から注目度抜群だ」
「えへへ。注目されちゃうね」
「それで、すかさず俺が学園パトロール隊にスカウトするんだ」
「うわぁ。責任重大だね」
「ああ、俺の人望は厚いからな。皆もすぐに歓迎してくれる。それでな、告白するんだよ」
「展開が早すぎるよ」
「一目惚れしましたってな」
「あはは。私も、一目惚れしましたって返すことにするね」
「約束な」

 彼の顔が近づく。

 そうだね。
 別れは希望に満ちていた方がいい。

 またいつかと、夢を見ながら空へと還ろう。

「来年、謎の転校生になるからね」
「待ってるよ」

 静かに、唇が触れ合った。