転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜

「すっかり寒くなっちゃったね」

 旧校舎の屋上で、はぁっと白い息を吐く。実はこの体だとあんまり暑さや寒さは感じないけど、白い息が出ることに嬉しさを感じる。

 私は今……あったかいんだなって。生きている人間であるように思えるんだ。

 一緒に食堂でご飯を食べてから、寮の門限までいつもリュークくんはここにいてくれる。

「もうすぐ……だからな」

 ドキリとした。
 私がいなくなるその日について話すのは初めてだからだ。

「うん。今までありがと」

 わざと軽い調子で言う。

「なぁ、まだここにいてもいいんじゃないか」
「え?」
「まだ未練とかさ、あるだろ? もっとここにいたいだろ?」
「また皆には見えなくなって、春も夏も過ぎて、秋には偽物の記憶に置き換わってを繰り返してほしいの?」
「……っ。それでいいじゃないか。俺には見える。ずっと見える。記憶もそのままだ。それでいいじゃないか」

 こんなふうに言ってくれた人は今までいない。亡くなった人間が生き返りはしない。そんな自然の摂理に反することを、誰も望まない。空に還ることが自然だと思うのは当然のこと。

「私はここにいちゃいけないの」
「他の皆だって、お前がこれからもずっと一緒だと信じている」

 そうだね。
 私が消える瞬間まで、きっとそう思ってくれる。そして、今度こそ私は空に還るんだ。

「うん。その日が来たら、思念体の女の子と一緒に短い間だけ遊んだ正しい記憶に戻るね」
「そうして悲しむんだ。もうお前と遊べないと知って悲しむ」
「うん。きっと悲しんでくれる」

 記憶も薄れてしまうけど……それはさすがに言えない。

 そんな目をしないでよ、リュークくん。
 決意が鈍っちゃうよ。

「だったら――」
「リュークくんの卒業する年に消えてくれって言うの? 私はこの場所に縛られているんだよ。どこにも行けない」
「……っ」

 もしかして、望めばそうなるかもって思ったこともあったんだ。

 でも、私は欲張りだから。こんな存在になっちゃうほどに未練を残すような人だから。そんなに一緒にいたら、空に還りたいなんて思わなくなっちゃう。

「卒業……してからも……」
「リュークくんは学園の先生になるの? ずっとここにいるの?」
「……ニコラだって、分かってくれる」
「そんなに苦しそうな顔をして未来を選び取らないで。ニコラくんの護衛なんでしょ。私のためにここに残るリュークくんを、私は望まない」

 それに、願いを形にできるニコラくんと、この場所に縛られている私。この条件が揃うのは今しかない。

「それなら、どうしたらいいんだよ……」
「そんな泣き言、リュークくんには似合わないな」

 私に縛りつけたくなんかない。人間ですらない私のために、自分を犠牲にしようとはしてほしくない。