柱:学校の中庭・昼休み

ト書き
柔らかな陽射しが差し込む中庭。
心音はベンチで弁当のフタを開け、ほっと息をつきながら一口目を運ぶ。
そのとき──背後から、軽やかな足音。
振り向くと、クラスの人気者の男子・桐谷が爽やかな笑みを浮かべて近づいてくる。

桐谷「心音ちゃん、ちょっといい?」

ト書き
心音は箸を止めて顔を上げる。
笑顔は軽いのに、目だけが妙に真剣。

心音「えっと……どうしたの?」

ト書き
桐谷は迷いなく一歩近づく。
周囲の女子たちがざわめく。

女子たち(小声)「桐谷君、ついに告るらしいよ」「相手、有坂さん?」「やっぱ可愛い転校生は強いな……」

ト書き
心音の胸がざわつく。

心音(心の声)「こ、告白……?いや、でも私にそんな……」

桐谷「転校してきた時から……ずっと気になっててさ。よかったら──」

ト書き
桐谷の言葉が続く前に、背後から足音。
影が二人に落ちる。
心音が顔を上げると、颯真が立っている。

颯真(落ち着いているが、少し嫉妬しているように)「……やめとけ」

ト書き
心音、颯真の言葉に少し戸惑っている様子。

桐谷(眉をひそめながら)「なんだよ、お前。関係ないだろ」

颯真(桐谷を無視し、真剣な目で心音を見ながら)「……こいつは遊び人だ」

ト書き
周囲の空気が一気にざわつく。
「言った……」「あの神宮寺が、嫉妬……?」という驚きが走る。
心音、困惑した表情になる。

心音(心の声)「え……神宮寺君……?どうしてそんなこと……。それに声が……いつもと違う……?」

桐谷(颯真をにらみながら)「勝手なこと言うなよ!」

颯真(桐谷を手で追い払うようなしぐさをしながら)「有坂さんにちょっかい出すな。俺、怒ると容赦しないよ?」

ト書き
桐谷は不機嫌に去る。
周囲にいた生徒たちも、二人を気にしながらも、中庭から出ていく。
二人きりになり、心音は気まずく視線をそらし、颯真は壁にもたれ、無言。
沈黙は少し重い。

心音「……さっきの、言い過ぎじゃない?」

颯真(強い口調で)「事実だ。あいつ……告白して付き合っても、すぐ飽きる」

ト書き
心音は思わず笑ってしまう。

心音「そんなに心配しなくても、私……大丈夫だよ」

ト書き
颯真の眉がピクリと跳ねる。

颯真「心配しちゃいけないのか?」

心音「いけなくはないけど……。でも私たち、クラスメイトで部活が一緒ってだけだし……」

颯真「それだけのつもりないけど。……じゃあ名前、今から下ので呼ぶか。心音」

心音「ちょっ……急に……」

ト書き
沈黙。心音は会話の温度についていけず、視線を泳がせる。

心音「私のこと、そんなに気にしなくても……」

颯真「気にする。……心音のこと、心配するのは俺の勝手だろ?……それに、ああいう奴に絡まれてるの、正直むかつく」

心音「む、むかつくって……。あの、さ。颯真にも好きな人ができたら、私ちゃんと応援するよ?」

颯真(小さく笑うが、目は笑ってない)「……それ、言われて喜ぶと思う?」

心音「え?」

颯真「……応援なんていらない」

ト書き
その瞬間、颯真が一歩踏み出す。
心音は反射的に後ずさり、背中がベンチの背もたれに触れる。
二人の距離が近づく。

颯真(低く小声で)「……俺のこと、挑発してる?」

ト書き
颯真、両手をベンチについて、心音が逃れられないようにする。
心音、少し震える。

心音「ちょ、ちょっと……近いよ……」

颯真(囁くように)「心音が言うからだろ……好きな人できたら応援するって……」

ト書き
颯真の顔が近い。
呼吸がかすかに乱れている。

心音(心の声)「なんで……なんでそんな顔で……私、何か……言っちゃいけないことを言った?」

颯真「そういうの、言わないで」

心音「えっ?」

颯真「俺が他の子を好きになるとか……そういう話、あんまり気分よくない」

心音「そ、そんなつもり……」

ト書き
心音が続きを言おうとした瞬間、颯真が心音にキスをする。
心音は驚きで目を見開き、時間が止まったように動けなくなる。
数秒後、颯真がハッとして離れる。
苦しそうに息を吐き、前髪を握りしめる。

颯真「……悪い。……でも……我慢できなかった」

ト書き
声が震えている。
心音は唇にそっと触れ、頬が一気に熱を帯びる。

心音(心の声)「……どうして……どうしてそんなに……苦しそうなの……?」