〇広告代理店〈グランツ〉本社・ロビー/出社初日 朝

ガラス張りの巨大な本社ビル。
自動扉が開いた瞬間、冷たい空調の風が肌を撫で、結衣の足がかすかに震える。

結衣(……っ、うわ……やっぱりすごい……見たことない世界……会社っていうより、映画のセットみたい……)

吹き抜けのロビーは光で満ち、
受付前には営業らしきスーツの人たちが忙しなくすれ違っていく。

結衣(大丈夫……深呼吸……ここに来たのは、やりたかったことのため)

エレベーターに乗り、クリエイティブ本部のフロアに向かう。

〇広告代理店〈グランツ〉本社・クリエイティブ本部のフロア/出社初日 朝

エレベーターの自動扉の向こうは、デスクにカラフルなモニターが並び、会議室では打ち合わせの声。
すでに制作が走っている案件の資料が壁に貼られている。

結衣(……すごい。本当に……プロの現場なんだ)

結衣、両手のポートフォリオをぎゅっと掴む。

そこへ――

人事スタッフ「インターン生の白石さん、ですね?こちらです」

人事スタッフに呼ばれ、結衣はこくりと頷いて歩き出す。

そして――

「こちらが、堂本チームです」

その一言で、結衣の心臓は跳ねた。

結衣(ちょ、待っ……心の準備が……!)

人事スタッフがドアを開ける。

〇広告代理店〈グランツ〉本社・堂本チームのオフィス/出社初日 朝

柔らかくぼやけた曇りガラスの向こう――
朝日を横から浴びて、白シャツの袖を折り返した慧が席にいた。

資料のページをめくる指先は無駄がなく、
光に照らされた横顔は、淡々としているのに目が離せない。

結衣(……ドラマ、じゃなくて現実……?)

緊張で手汗がにじむ。声が震えないように祈りながら、

結衣「今日から配属になりました、白石結衣です。よろしくお願いいたします」

深く頭を下げる。

その瞬間――
慧がふっと顔を上げた。

優しい目が真っすぐ結衣を射抜く。
一瞬、瞳が驚きに開かれ、すぐに柔らかく笑った。

慧「……白石さん。ようこそ」

結衣、頬が赤くなり思わずうつむく。

慧は席を立ち、結衣の前に軽く歩み寄る。

慧「緊張してる?」

結衣「……はい、少しだけ……」

慧は微笑んだ。

慧「最初から完璧じゃなくていいよ。ここは“成長する場所”だからね」

結衣(こんな話し方……するんだ、この人……)

結衣、気を取り直して顔をあげる。

慧「白石さん、今日は晴れたな」

慧の目が細められ、柔らかく光る。

結衣、頬が熱くなる。

結衣(……覚えてくれているんだ。あの日のこと……)

結衣「……はい。すごく、晴れてます」

慧は少し歩き出し、席に戻る。

慧「白石さん、表情がさっきより柔らかいね。そのくらいでちょうどいいよ。無理に背伸びしなくていい」

結衣「……はい……」

結衣、一礼し部屋を出るため、ドアノブに手をかける。

結衣(どうして……ただの上司なのに……どうしてこんなに……)