借金令嬢は異世界でカフェを開きます


 赤くなっていいものか青くなるべきか。
 散々迷惑をかけているのに、オズワルドにお姫様抱っこされたのかと考えただけで、はしたない悲鳴をあげそうになった。

(私、どうして覚えてないの。い、いえいえ、そうじゃないわ。そうじゃないんだけど)

 混乱しすぎて頭がショートしそうだ。正直、確認する勇気はない。

 気を取り直してこっそりカフェをのぞくと、店で働いてくれているのは皆、オズワルドとよく来てくれる常連客たちだった。
 後ろからキャロルが、「ね。心配いりませんでしたでしょ?」と自慢げに笑う。
 キッチンは魔石併用でモリーも使えるし、基本作り置きできるメニューが中心になっているとはいえ、あまりにも通常のように見えるカフェの様子に呆然とした。

「あ、あの、お給金は、はずみます」

 混乱した頭でどうにかグレースなりに正解と思われる言葉を漏らしたものの、キャロルはコロコロと笑い、「給金など貰ったら、むしろ彼らの首が飛びますわ」などと物騒なことを言う。

「ねえ、レディ・グレース。元気になったらむしろ、美味しいコーヒーと食事を振舞ってやってくださいませ。この前のクレープならなお大喜びですよ。もちろん私もです」

 キャロルの弾むような口調に、グレースは涙がにじむのを我慢しながらこくこくと頷いた。

「喜んで。ええ、喜んで振舞わせてもらいます」

 こっそりのぞいていることに気づいたらしいモリーに(上に戻ってください)とジェスチャーで叱られ、グレースたちは部屋に戻った。

「そういえばオズワルドさんは」

 まだまともに礼も伝えてないが店にはいなかった。仕事中だろうか。