借金令嬢は異世界でカフェを開きます

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「レディ・グレース?」

 ふっと力の抜けたようにもたれかかってきたグレースに声をかけたオズワルドは、彼女が意識を失ったことに気づいた。

「……すみません、失礼します」

 頭の傷を確認し、彼女を自らの膝の上に乗せて抱えなおす。傷は思ったほど大きくないが二か所に裂傷があった。頭部の傷は出血が多くなる。モリーが医者を連れてくるまで、このまま圧迫していた方がいいだろう。
 魔力も使って傷の具合をはかってみたが、頭の傷は打ったものではなく、何かとがったもので切れたものだと思われた。肩や足にも打撲があるようだが、数日休めば大丈夫だろう。

 王の実子とはいえ、諸事情から王子の称号を持たなかったオズワルドだが、それでも魔力量は国で一、二を争う。普段はそれほど恩恵を感じるものではないが、今日に限っては自分の出自に少しだけ感謝した。

 グレースに伝えることがあって訪れたのだが、倒れていたグレースを見て血の気が引いた。常ならば考えられないことだったが、彼女以外のものが何も見えなくなったのだ。
 状況から見慣れぬ男たちが原因であることも、ましてやそれが客でないこともわかった。
 普段剣は持ち歩いていないが、そんなものがなくてもあの程度なら一瞬で制圧できる。

(後悔させてやる!)

 そう考えた瞬間グレースに止められた。
 従いたくはなかったが、その気丈さと気高さに感銘を受け、オズワルドは男達をいったん見逃したのだ。もちろん許す気はない。

 腕の中にいるグレースは、想像よりも小さく感じられた。力を加えれば壊れてしまうのではないか。そんな風に不安になるほど華奢であることに改めて気づく。

(守ってあげられたらいいのに)

 オズワルドの中で、その気持ちが徐々に膨らんでいく。それは心の奥で抑えていた何かを超えてしまったように感じ、天を仰いで大きく息をついた。それに名前を付けるのは恐ろしかった。



 モリーが連れてきた女医は知人であったため、グレースを抱くオズワルドを見て一瞬眉をあげたが、それには何も触れずてきぱきと処置してくれた。

 その間にオズワルドは姉に事情を話し、看病に誰かよこしてほしいと頼んでおく。女性同士のほうがいいだろうと思ったのだが、これでまたからかわれることになっても甘んじて受けよう。
 店のほうの手伝いも声をかけた以上に人が集まったので、しばらくは問題ないだろう。

「グレース。僕はしばらく留守にします。本当は話してから行くつもりでしたが、詳しいことは帰ってから話します」

 すやすやと眠るグレースに声をかけたオズワルドに、姉のリーアことエミリアがニヤリと笑う。

「しっかりな」
「わかってます」