しかしオズワルドが男たちに向かおうとした時、グレースが彼を止めた。
「お願い、開店前です。お引き取り下さい」
そう男たちに訴えながら。
「レディ・グレース!」
「いいんです、オズワルドさん。――お願いです、みなさん。今日はお引き取り下さい」
男たちは口の中で何か悪態のようなものをつきながらも、オズワルドをチラチラ見つつ、後退るようにしてようやく店から出ていく。
グレースはオズワルドが動かないよう必死で止めながらドアが閉じたのを確認し、ほっと息をついた。そろそろと立ち上がり、弱々しいながらも笑みを浮かべてオズワルドに謝罪をする。腰が抜けたままどうにか這いずりだしたモリーにも、
「あなたに何もなくてよかったわ」
と微笑んでくれて、モリーは涙が止まらなくなった。
「ご、ごめんなさい。ごめんなさい、グレース様。あたしのほうがグレース様を守らなきゃいけないのに」
「それは違うわ、モリー。あなたを守るのも、私の役目です」
そう言ってモリーのそばまで来て髪を撫でてくれるグレースに抱き着くと、何かで手が濡れた。
(え?)
ぬるりとした生暖かい感触。
不思議に思って手のひらを見ると血で真っ赤に染まっている。
「お、お嬢さ……」
「っ! レディ・グレース、頭から血が!」



