店にはグレース一人しかいないと思っているのだろう。男たちからモリーを隠してくれてるグレースは、耳が聞くのを拒否するような卑猥な言葉を投げられている。下卑た笑いにモリーの全身が粟立った。

(ウソだ。借金が返せなかったら、あのお嬢様が娼婦にさせられる⁈)

 それも時間の問題なのだから自分たちの相手をしろと下卑た笑いが響く。

(カフェはとても人気なのに? 旦那様はどれだけ大きな借金をこさえたの?)

 開店前だから帰ってくれと、冷静な声のお嬢様に涙が出てきた。

(動け、あたし。グレース様を守るんだ!)

 絶対見つかってはいけないと命令された。
 めったにない厳しい口調での、グレースからはほぼ初めてと言えるくらいの強い命令だ。それを破ることに心の一部が抵抗するけれど、ほかの部分はグレースを助けたくて、でも怖くてわけがわからなくなる。

(お願い、あたしの体、動いて)

 こわばった体を動かし物陰からどうにか店を見ると、男の一人がグレースの腰に手を回した。そのまま尻をつかむように乱暴に引き寄せたかと思うと、男が唇をお嬢様の唇に押し当てた。
 ひっとモリーが息を飲むのと、グレースが男に平手打ちをしたのは同時だった。
 次の瞬間、激高した男にグレースは文字通り殴り飛ばされ、テーブルやいすを倒しながら倒れた。

(グレース様!)