「なにか借金を返す手立てを考えなくてはね……」
それもあって父は投資にのめりこんだのかもしれない。領民には慕われていたから、父なりにこの土地を豊かにしようと思ったのだろう。
それでももし、ソリス家が領地のない下級貴族だったら。
祖母にはつらいだろうが家族で平民になり、皆で働けばどうにか食べていくこともできただろう。
グレースがそんなことを考えてしまったことは、一度や二度ではなかった。
そうもいかなかったのは、この家の立場が会社の社長だと考えればグレースにも理解できた。領民の生活は守らなければならず、勝手に投げ出すわけにもいかない立場なのだと。
たとえ領主がすんなり代わることができたとしても、それが領民の為になるかは怪しいところがある。旨味のない田舎領地だ。どこかと兼任され、こちらが打ち捨てられる可能性も高い。
「どうせ生まれ変わるなら、車が空を飛んでるような未来世界に転生したかったなぁ。こんな十九世紀かそこらのヨーロッパチックで魔法のある世界じゃなくて。なにかと不便すぎる」
着るものはドレスだし、魔法なるものは使えるけど、美古都が思ったのとはちょっと違う。何かを温めたり冷やしたりできる程度の「しょぼい」魔法なのだ。
しかも当時のグレースには当たり前のことすぎて気づいていなかったのだが、魔法を使うための魔力を持っている人は多くない。貴族はそれを持ってるのが当たり前だけど、その差はずいぶんと大きいらしいし、平民はほぼ魔力を持ってない。
今使われている生活道具は、そんな魔力に変わるものをということで発展してきたらしい。
(いわゆる産業革命みたいな感じなのかなぁ)
便利になったとはいえ、一見すると魔力を利用してるのか、違う力を利用しているのかわかりにくいのは、いいことなのか悪いことなのか。
移動は徒歩や馬車で、辛うじて上下水道はこんな田舎領でも完備されているが、ガスはないらしい。電気はないが魔法で明かりは使える。うん、これはまし。現代っ子に暗闇は辛い。



