借金令嬢は異世界でカフェを開きます

 冷蔵庫、もとい保冷庫と呼ばれている棚は、裕福な家にはかなり浸透している。しかし基本的に、食品の長期保存は塩漬けや加工という世界だ。ここで食品を冷凍するには、微妙な温度調整を可能にする魔力と技術、あるいはそれに特化した高価な魔石が必要になる。
 このカフェの保冷庫で冷凍も可能なのはグレースの力と、たまたま以前手に入れた魔石のおかげなのだが、内情を知らなければ、地方領主の娘が出資するカフェに冷凍できる設備があってもそれほど驚かれることではなかった。

「まあでも、それを溶かしてすぐ使うことはできるんでしょう?」
「ええ、まあ」

 解凍も電子レンジよりも早くできるグレースは、マロンの抱える荷物に視線を向けた。

「マロンさん、卵白とそれが関係あったりします?」
「ふふ、ご名答。ね、お義母さん。これは絶対、グレースが喜ぶものよ」
 上機嫌なマロンにピアツェも頷くが、グレースは今から何が出てくるのか予想もつかず数回瞬きした。

(卵白に関係ある何か? メレンゲ作りに大活躍のハンドミキサー?)

 一瞬ほしいものを浮かべて、心の中で小さく首を振る。家庭用でもいいからあったら便利だと思うけど、さすがにこの世界にはないだろう。

「もう、二人とも。じらさないで教えてください」
「そうね。じゃあ見せるわね。まず一つ目!」

 じゃじゃーんと効果音でも付きそうな様子でマロンが取り出したのは、二リットルのペットボトルくらいの大きさの容器だった。開けてみるように言われてグレースがふたを開けてみると、中には白い液体が入っている。

(ミルク? ――それならわざわざ、こんなにもったいぶらないわよね。ということは……え? もしかして?)