借金令嬢は異世界でカフェを開きます




 マロンと一緒に後片付けと掃除をすると、早くに亡くなった今世の母を思い出した。グレースの母の仕事は使用人の采配をすることだったから、自ら家事をすることはなかったけれど。

(それでもこんなふうに甘えるって、なんだか新鮮で素敵かも)

 がむしゃらに頑張ってきたご褒美のような気がして、グレースの頬がついほころぶ。

「そういえばマロンさんたち、今日はどんな御用だったの?」

 二人の服装からして、単純に遊びに来たわけではないだろう。
 グレースとマロンが床掃除が終わって、テーブルに上げていた椅子をすべておろし終わると、洗った食器を布巾でふいていたピアツェがいたずらをたくらんだ猫のような表情を浮かべ、マロンは女子高生のようにクスクスと笑った。

「そうそう。忘れるところだったわ。いいニュースがあるのよ」

 そう言ってマロンが、自身が持ってきた大きな荷物を手に取る。

「ねえ、レディ・グレース。今日は卵白がたくさん出た日でしょ? 午後のデザートは何を作るの?」
「デザートですか?」

 マロンの質問にグレースは考えるように視線を上に向けた。
 普段ならモーニングのある日は、フレンチトーストを作る過程で残ってしまった卵白を使ってデザートを作る。メレンゲクッキーかラングドシャ、シフォンケーキが定番だ。

「今日はメレンゲを作る時間が取れないと思ってたから、デザートは果汁を使ったゼリーにしようかと思ってたんですよねぇ」
「残った卵白は?」
「冷凍して保存中」

 あっさりそう言ったグレースに、ピアツェたちは呻くように「ああ」と言った。

「そうか。ここはお貴族様のお館だもんね。冷凍なんてものができちゃうんだね」

 さすが庶民とは違うと頷く二人に、グレースは黙ったまま微笑んだ。