借金令嬢は異世界でカフェを開きます

「ええ。風邪で寝込んでしまって。でも今朝朝食を持って行った時には、熱もかなり下がったから、明日には帰ってこられるって話してたんだけど」

 日本で使ってたような電化製品もサービスもないこの世界で、一人で店を切り盛りして、さらにきちんと家事をするのは大変だ。
 そうは言ってもサイモンの母に甘えるのもどうかとオロオロするグレースに、ピアツェが活を入れるように「グレースっ」と呼んだ。

「は、はい!」
「あのね、グレース。これは前にも行ったと思うけど、困ったときは誰かに頼っていいんだよ。いや、むしろ頼りにいけばいいし、甘えさせてくれるというなら素直に甘えるんだ」
「それは分かってるけど……」

 昨日はサイモンに助けられ、グレースがしたのはケーキを上げたことだけ。労働と対価があってない気がする。そう考えてしまうグレースに、マロンもコロコロ笑って姑に賛同した。

「甘えてくれたら相手も甘えやすくなるのよ。だいたいレディ・グレース? あなた、自分で思ってるよりも周りの人を助けているのよ? たまには恩返しの機会でも作らないと周りのほうが困ってしまうわ」

 おっとりと笑ったマロンは、「ということで、私は掃除をしましょうか」と、空になった皿を持って立ち上がった。

「やだ、マロンさんまでそんな」
「やらせておきなさい、グレース。マロンは掃除が上手だよ。ついでにコツも聞けばいい」
「そうそう。私の掃除はお義母さんのお墨付きよ」

 グレースに負担をかけないよう気遣ってくれる二人に、グレースは心の奥の美古都をひっぱりだした。

「じゃあ、マロンさん。お掃除のコツを教えてくださる?」

 無意識に子供のように小首をかしげたグレースに、二人は明るい笑い声をあげた。

「もちろん」