そううそぶいてみせたのに、自分の言葉に胸が痛む。
 グレースが時々実家に帰るのは、その男に会うためだろう。こちらに戻るたびに物思いにふけるような様子を見せるのは、結婚を急かされているからかもしれない。

「本人がそう言ったのか?」
「いえ。それは」

 エミリアはため息をつくと「言おうかどうか悩んだんだが」と、グレースの実家について話し始めた。

 ***

 亡くなった前伯爵が残した借金を、グレースが働いてその返済にあてているという。領地の運営は弟がして税金で賄っているので、本当に彼女のあの細い肩に借金が乗っているというのだ。
 売上から返しても返しても減らない利子。雑談の中からおかしいと思い調べていくと、あと二年で返済できなければ、グレースは貸主のものになる約束なのだと。

「もの?」
 予想もしていなかった姉の話にオズワルドはぎゅっと眉を寄せた。
 もの? ものってなんだ?
「相手は既婚者だ。よくて愛人、悪ければ……」
「なっ、馬鹿な」
 オズワルドはカッとした。
「いくら莫大と言っても店は繁盛してますし、株もうまくいってるでしょう」

 会話の端々から、彼女がいくつかの株主であることには気づいている。彼女のアイデアで助かった人が、何かと便宜を図ってもいる。

「私もな、キャロルを助けてくれたものを事業化して、彼女を筆頭株主にしようと考えてるんだ」
 姉の新事業の話に、
「――ちなみに、その助けてくれたものとは?」
 ずっと気になっていたことを聞くと、姉はいたずらっぽく笑った。

「ま、女性の下着だな」
「下着?」

 あまりに予想外で、それでいて単語の生々しさに動揺すると、姉は今までの重い空気を吹き飛ばすようにゲラゲラ笑ったあと涙を拭った。

「女の体を守るために作られたはずのコルセットが、流行のせいで体に害をなしてたってことだよ。グレースが作ってくれた代替品でキャロルは救われたんだ。驚きだろ?」
「そ、そうですね」
「グレースのウエストは細いが、自然なくびれだ。周りの令嬢に比べれば太いが」
「太くないですよ」

 思わず反論し、はっと口をつぐむ。今でさえ、時々折れやしないか心配なのに。

 彼女の後ろ姿を思い出し、もしや彼女は時々食事を抜いてるのではと思い当たった。時々こける頬。あれは飢えていたのでは?
 食事は余り物だと言っていたから、もしかしたら。

「そんな、まさか」

 だが考えれば考えるほどそうとしか思えなくなる。そう思えば、彼女の憂いた表情は将来の不安でしかなかったはずだ。
 彼女はいつも笑顔だからって、なんで気づかなかったんだ。

「姉上、ありがとうございます。僕も調べてみます」