グレースは不思議な女性だ。
誰からだっただろう? 珍しい店ができたからと教えられ、初めてぶらりと立ち寄った時には驚いた。店の雰囲気も変わっているが洗練されていて、コーヒーも珍しい食事も美味しくてすぐに気に入った。
だが給仕をしているグレースが、伯爵令嬢その人であることに気づいたオズワルドは内心唖然としたのだ。
彼女が本人だと気づいたのは、その数ヶ月前、ソリス伯爵の地位を長男が継ぐために、彼女とその弟が王宮を訪れているのを目にしていたからだ。
記憶をたどってもグレース嬢に覚えがなく調べたところ、大変体が弱く社交界デビューもしていないことが分かった。
だが父親の死で弟を助けるために、王都で店を開いたらしい。
笑顔を絶やさないグレースだが体が弱いのは本当らしく、時々心配になるほど頬がこけることがある。顔色も悪いのに、それを感じさせないほど元気に明るく働く姿に目を奪われた。
グレースは客が少ないときは雑談にも気軽に応じてくれるのだが、それがとても楽しい。
オズワルドは時々大学の講義を引き受けるのだが、出した宿題をグレースの店でしていた学生が、こっそり計算間違いを教えてもらったというから驚きだ。簡単な算数ではない。頭の体操を兼ねて、四桁から五桁の数字を十以上足したり引いたりする計算を計算機なしで行うものだったからだ。



