カフェは繁盛していた。
客たちは店とは言え貴族の邸宅に入ることを面白がったし、珍しいものに目がない気質も手伝って店は繁盛している。
気楽に、しかも他よりおいしいコーヒーが飲めると言ってくれる客は少なくない。
食事もこの国に馴染みのあるものから少しずつ増やしていった。ここではフォカッチャのようなパンや、おかゆのような米料理が主流だったが、今ではグレースが作るサンドイッチやピラフなど、日本でも作っていたメニューが受け入れられていた。
一般的に貴族の食事でも、ただ茹でたりオーブンでドカンと焼く料理が多い中、グレースの作る煮込みハンバーグやコーンスープはこっそりやって来る上流階級のお客様にも人気商品だ。
中でもポテトサラダは出す日を予告してほしいと言われるほど好評だし、前世でカフェ飯と呼んでいた一皿盛りのメニューも、月に一度のお楽しみとして受け入れられている。
新聞に公告を出す予算などないから、はじめはリフォームをしてくれた業者の方とその家族や友人を招いて、「これから出すメニュー」だとコーヒーと食事を振舞った。彼らの口コミで徐々に客足が伸びた。
教育機関は上流階級のものであるため、中流以下の人々の識字率は低い。それを実感したグレースが、モリーにメニューのイラストを描いてもらったのも効果があったと思う。前世では普通だった写真入りのメニューに近いそれのおかげか、「実はこのカフェのおかげで少し字を覚えたんだよ」とこっそり教えてくれるお客様もいた。



