「ほほ。ご結婚でもなさったら奥様と呼んで差し上げますよ。早く婿殿を見つけてくださいませ、嬢ちゃま」

 言外に、グレースが娘を産んだらそちらを嬢ちゃま呼びするからと言ってるのが分かり、グレースは「善処するわ」と肩をすくめた。さすがにそんなことは無理だと言って悲しませることはない。

 軽口をたたきながらも、ハントの作ってくれたランチョンマットは最高に素敵な出来だった。これをもとに改良を重ねたものを店で使うのだ。



「まあ、もしもこれが不評だったら、テーブルクロスに戻せばいいわ」
(きっと受け入れられると思う、そんな予感はするんだけど)

 モリーの気持ちを汲んだグレースが請け合うと、モリーは元気よく「はいっ!」と頷いた。柔らかなツインテールの髪が揺れ、それがミニチュアダックスフンドをほうふつさせる可愛らしさに、グレースは思わずくすくすと笑ってしまう。

「頼りにしてるわね」



 モリーの仕事は基本グレースの生活面でのサポートだ。掃除や洗濯の家事はもちろん、こまごまとした仕事を手伝ってもらうことで、グレースは店のことに集中できる。
 慣れない土地でも一人ではない。そのことが何よりも心の支えになった。