「それにしてもグレース様の発想はすごいですね。あの邪魔なだけのバンフィナが、こんな素敵なものになるなんて思いもしませんでした」

 ランチョンマットを手に取ったモリーがしみじみと頷く。

 バンフィナはソリス領では珍しくもないただの雑草だ。
 虫を寄せ付けないバンフィナは放っておくと大増殖する。大昔はこれを編んでカゴやテーブルにしてたらしく、今でも庶民の一部がカゴや団扇(うちわ)を作ることがある。しかし物には限度というものがあり、大半は邪魔なごみとして処理されていたのだ。

「物持ちがよくて器用なハントさんたちのおかげよ」



 カントリーハウスの庭師であるハントは手先が器用な老人だ。
 子どものころから、彼が仕事で使っているカゴと持ち運べる小さな椅子を見ていたグレースは、その材料がバンフィナであることに気づいた。しかもごみとして集められたそれは色味が一つではない。そのことに気づいたグレースの脳裏に、前世土産としてもらった組み木細工の箱が浮かんだ。

(色が違うバンフィナを組み合わせて編めば、おしゃれなものができるんじゃないかしら)

 そう考えて簡単にランチョンマットのデザインの希望を伝えたグレースに、ハントは優しく目を細めた。

「嬢ちゃまも面白いことを考える。何かの童話にでもありましたかね?」
「そんなところよ。――ねえ、ハント。そろそろ、嬢ちゃまはやめない?」

 小さいころから変わらない呼び名はさすがに恥ずかしいというグレースに、彼はにやっと意地悪そうに笑って見せた。