このタウンハウスは、王都でも城下の隅に位置する。そのため客は学生や中流階級の近隣住民がメインになると予想しているし、カフェを開こうと思った理由でもあるのだが、当然貴族も来る機会はあるだろう。その時クロスの敷かれていないテーブルでの食事など気を悪くするのではと心配しているモリーに、グレースは優しく笑いかけた。

「大丈夫よ。だいたいこの数のクロスを毎日洗濯するのは大変だし、非効率だわ。かわりに領内のみんなに作ってもらった、このランチョンマットとナプキンを使います」

 前世を思い出したことで、グレースはこの国のクロスの使い方がとても苦手になった。テーブルや手を汚さない為に敷かれたテーブルクロスは、汚れた口元や手を拭うのにも使われるのだ。そのため毎日洗濯が欠かせないのだが、この世界にはローラーで挟むような脱水装置(しかもこれが最新式!)はあっても洗濯機はない。
 洗濯は重労働で大変な仕事というのが、ここでの常識。
 これがモリーの仕事になることを考えれば、負担は最大限減らしておきたい。

 なので少しでも仕事を楽にと考えたグレースは、テーブルクロスの代わりにランチョンマットとナプキンを使うことに決めた。

 ナプキンは、モリーの母親を中心とした女性たちが縁に刺しゅうを施した大判のハンカチよりもさらに大きなもので、洗濯の手間も干す時間も短縮できる。ランチョンマットは竹と蔓の間のようなバンフィナという植物を編んだもので、普段の手入れは布巾でふき、汚れてもザバザバ洗うことができる。
 手入れが楽なうえにおしゃれだ。
 そう思ったのはグレースだけではないらしい。領地の皆の反応の良さから、少なくとも中流階級には受けると考えたグレースは、どちらのデザインも貴族が好む上品なものを考え作ってもらったのだ。

(領民の皆さんの器用さ、生かさない手はないわよね)