ちなみに改装中、グレースがタウンハウス前で仮オープンしていた出店で提供していたコーヒーと軽食も親方はじめ、業者の人たちに喜ばれた。


「知ってるか? 今度開店する、カフェとかいうところのコーヒーと飯がうまいみたいだぞ」

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 グレースは実のところ王都に来たことがほとんどなかった。
 思春期に入るころから頭痛がひどくて、社交界デビューもしていない。つまり、世間はグレース・メアリー・ソリスという伯爵令嬢の顔を知らない。
 でも店の名前は「レディ・グレース」にした。自分に対する皮肉もあるけれど、店主は領地にいるグレース嬢であるように見せることが出来るからだ。

 店の切り盛りは基本グレース一人でするが、王都には一人だけメイドを連れてきた。二歳年下のモリーだ。
 ソリス家に代々使える使用人の娘であるモリーは、グレースが文字通りの深窓の令嬢であったことも、ずっと体が弱かったことも近くで見てきた。そのため、ことあるごとに心配そうにグレースを見る。一人で行くつもりだったグレースに、絶対ついて行くときかなかった、かわいい妹のような存在だ。

「グレース様。なんだかとっても変わったお店ですよね?」
「ふふ、そうね。でも居心地よさそうだとは思わない?」