ある日、街外れの小さな広場で、
ひっそりと歌声が響いた。
足を止めたフィリップの視線の先には、
孤児たちに歌を教える一人の女性
――エレーヌがいた。

彼女はかつてマグノリア一の歌姫として知られたが、
舞台事故で顔に火傷を負い、
引退していた。

最初、
フィリップは彼女を哀れな存在と見下す。
「哀れな落ちぶれ女……だが、どうしてこんなところで歌っている?」

けれど、
彼女が孤児たちに向けて歌う“希望の歌”に、
無性に胸を打たれる。
歌声は痛みを抱えながらも、
確かな光を放っていたのだ。
「――美しさとは、顔の造形だけではないのだ。歌声に、これほど心を動かす力があるとは……」

フィリップが街でエレーヌを偶然見かけた
そんな折。
都では、
美しい女性ばかりが誘拐される事件が続発していた。
犯人として囁かれるのは、
美を崇拝する貴族アロイス卿。
彼は「永遠の美」を保存することに取り憑かれ、
狂気の行動に走っていた。