自身の持つ最も低い爵位「オルテンシア男爵」を名乗り、旅の道中に初めて
マグノリアへ足を踏み入れたフィリップ。

マグノリア社交界は、
彼を華やかに歓迎する。
だが、その笑顔の裏には、
好奇と皮肉が隠されていた。

リーゼロッテ王女とクラウス王子の恋物語は
マグノリアでも有名で、
王都グラディオーレンの劇場の人気演目となっていた。
「ほほう、あの若き王子が……かつての求婚者とは、興味深いわね。」
フィリップはその好奇な視線を察しながらも、
かつての栄光の感覚が胸を満たすのを感じていた。
“傲慢な王子”の自分が、
まだそこに生きている――

社交界の未婚令嬢たちが、
こぞって彼をもてなす。
彼女たちの笑顔の裏には、
ハイドランジア皇家との縁を狙う計算が透けて見える。
フィリップも馬鹿ではなく、
近寄ってくる令嬢たちの思惑を嗅ぎ取っていた。
だが同時に、
称賛に包まれる心地よさに抗えず、
知らず知らずのうちに笑みを浮かべる自分に気づく。

「……ああ、この感覚……昔と同じだ。誰もが俺を称える世界――悪くはないな。」

しかし、その虚栄の中で、
彼は本当に満たされることはなかった。