静まり返る音楽の中で、
フィリップは一歩、彼女に近づく。
「ミレーヌ。私は旅の中で知った。立場や身分で国は救えない。才能と志を持つ者こそ、国を動かすべきだと。だからこそ、君のような人が国には必要なんだ。私は――できるなら君のような女性と共に、“新しいハイドランジア”を作りたい。」

ミレーヌの目が驚愕で見開かれる。
「……あなた、本気でそんなこと言ってるの？ハイドランジアはウィステリアより保守的な国でしょ。」
「ああ。本気だ。仮面の下の私を見つけてくれたのは、君だけだった。」
マスカレードが終わりを告げる鐘が鳴る。
人々が次々と仮面を外す中、
ふたりも静かにそれを外し、
ありのままの顔で向き合った。

「なんで私なの？」
ミレーヌが恐る恐る尋ねる。
彼女の顔にはフィリップへの疑念が浮かんでいた。
実はミレーヌにプロポーズするのは
フィリップの予定にはなかった。
話の流れがあったにせよ、
自分の口から自然に出てきたのだ。